平成26年度までに実施した種々の帯域および分析条件での脳波の分析の結果、α波などの自発脳波だけでは、体を一切動かさない条件では当初目標としていた文字入力精度を得るのが困難であることがわかった。このため、平成27年度の目標を運動想起による事象関連脳波を利用した文章入力システムの実現に向けた基礎検討に定め、運動想起による事象関連脱同期(ERD)の検出実験を実施した。対象とした被験者は健康な大学院生4名であり、Emotiv社製多チャンネル脳波計EPOCを利用してERDの検出実験を行った。 測定前に運動想起によるERD発現のトレーニングを行った。トレーニング1セットを6分とし、最初の2分間は実際に肘の屈伸で右腕を上下させた。その後の4分間は同様の運動を想起させた。このトレーニングを1日あたり7セット繰り返し10日間の測定前全てで行った。 5sの何もしない通常状態と5sの肘の屈伸運動を想起している状態の計10sを55回繰り返したものを測定した。特徴量はβ波帯域のエネルギーとし、運動想起期間のエネルギーが通常状態のエネルギーに比べて低ければERDが検出できたとみなした。 トレーニングの結果、2名ではわずかに精度が向上し、トレーニングの効果を確認することができたが、残りの2名は変化がなかった。最も良い成績を上げた被験者では、最大で約82%の検出率を得ることができた。しかし、文字走査入力システムに直接応用可能なほどの安定した精度を得ることはできなかった。
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