研究課題/領域番号 |
25560295
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳原 大 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (90252725)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 作業記憶 / 身体性 / マウス / 障害物回避 / アルツハイマー病 |
研究概要 |
素早く単発的に遂行される動作は、主としてフィードフォワード制御のもとで行われる。そのような動作の反復練習あるいは学習時には、事前に行った動作に関わる種々の感覚情報および動作の生成に関わった中枢性コマンドの遠心性コピー(efference copy)などの情報(ここでは身体性情報と呼ぶ)を、これから行う動作の中枢性コマンドの生成に利用するものと考えられる。この際に重要な脳機能としては、この身体性情報を一時的に保持しておく機能であり、ワーキングメモリー(作業記憶)の一つとして考えられる。本研究は、従来までほとんど神経生理学的に理解されていなかった身体性作業記憶の生成と保持に関わる神経機構について、独自の実験パラダイムを構築し、明らかにすることを目的とした。具体的には、マウスにおいて歩行路の前方に設置された障害物を跨ぎ越して回避する障害物回避歩行の際、前肢が障害物を跨ぎ越した後、一時的に歩行を中断させてから後肢の跨ぎ越し動作を行わせる遅延障害物回避歩行課題を構築した。 アルツハイマー病患者は健常者に比べて歩行時の転倒が多いことが疫学的にはよく知られている。この原因として、アルツハイマー病によって引き起こされる空間認知機能、作業記憶における機能低下が関与していると予想されている。アルツハイマー病による高次認知機能障害には、本研究が取り組む身体性作業記憶の機能低下も含まれている可能性が大変高い。そこで本年度は、アルツハイマー病において身体性作業記憶がどのような機能低下を引き起こすのかについて、アルツハイマー病モデルマウスにおいて歩行時の障害物回避動作ならびに身体性作業記憶への影響を調べた。アルツハイマー病モデルマウスは障害物を跨ぎ越す際に障害物と高い接触率を示した。さらに、遅延障害物回避歩行課題において、作業記憶の減衰が生じていることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスにおける遅延障害物回避課題の構築に成功し、また、アルツハイマー病モデルマウスにおける作業記憶の障害について信頼性のある重要なデータを得ることができた。この研究成果について、The Society for Neuroscience Annual Meeting 2013や第68回日本体力医学会大会、第11回日本ワーキングメモリ学会大会において発表を行い、現在、国際誌への投稿論文として準備している。
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今後の研究の推進方策 |
中脳の腹側被蓋野のドーパミンニューロンは作業記憶の神経機構として重要な役割を持っていることが知られている。そこで、今後は身体性作業記憶に対する腹側被蓋野のドーパミンニューロンの特異的破壊による影響を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
動物処理費用として計上していたが、大学運営校費からの予算が提供されたためにその分余剰が生じた。 実験動物飼育における消耗品(餌及び床敷など)の購入費用として計画している。
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