研究課題/領域番号 |
25560307
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京女子体育大学 |
研究代表者 |
渡邉 博之 東京女子体育大学, 体育学部, 教授 (30247887)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 動感呈示 / 動感借問能力 / 指導者の専門能力 |
研究概要 |
本研究は、体育あるいはスポーツにおける実技指導において、指導者が教えようとする動感的な目標像、あるいは動きかたのコツを伝える方法と手段に関する処方分析上の課題について考察を進めている。平成25年度は、視覚的機器類の利用による呈示、あるいは示範や身振りないし擬声語を含めた多様な呈示方法が有効に機能するための前提として、「動感借問」の問題を取り上げその重要性を明らかにした。 実技指導において、指導者が学習者に動きかたについて質問する場合、学習者は一言二言を断片的にしか答えられないことが多く、強引に答えさせようとしても口籠もってしまうだけである。たとい自我中心化作用の直感的な事柄を私的な言語としてとらえていたとしても、それはぼんやりとしていて他人に表現することが難しい。そこでの指導者の問題は、学習者の動感経験ないし自己観察として語られる言葉をどのように「解釈」し、また学習者が抱える運動問題の核心との接点をいかにして見いだすのかということである。そこで、学習者が求めるコツに適した素材を暴き出すようにたたみかけて質問する動感借問のあり方が問題となる。 この動感借問は、指導者が学習者の動感志向形態における先行理解に対して、より詳しく質問していくことが厳しく求められることになる。その上で共通項としての動感素材を双方で確認することができると、それが学習者の動機を触発し直ちに「やってみよう」という場面に進展する。促発指導の起点においてその都度行われる動感借問は、学習者の最適な動感素材を呈示する手がかりを探るのである。従ってどのような呈示方法をとるにせよ、その効果的な選択は動感借問能力に依存しているのであり、その能力は体育やスポーツ指導における指導者の専門性となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、体育やスポーツ指導において指導者に不可欠な動感呈示能力の分析と、その能力養成方法論を構築することが目的手ある。平成25年度は、多様な能力が複雑に絡み合う動感呈示の問題のうち、動感借問との関係を論考としてまとめ専門の研究機関誌に投稿した。26年度以降は、さらに動感呈示の内実を明らかにすべく研究が進んでいることから、研究進度ならびに達成度はおおむね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に明らかにした動感借問の重要性とその能力のトレーニング可能性の問題は、実技指導における指導力、さらには高等教育機関における教員養成課程のあり方の転換を示唆している。そこでは、指導者の専門能力としての促発身体知における動感交信、学習者の動感地平構造を読み取りつつそこに働きかける動感呈示、およびその前提的機能としての動感借問に問いかけている。指導者が発掘する最適な素材と効果的な受け渡しは、指導者と学習者をつなぐ動機づけとして不可欠であり、その動機づけをめぐって続く解釈学的循環がまさに指導の実を挙げる絆を保証するのである。また、学習者の運動問題を丸ごとわが身に進んで引き受ける態度は、指導者の人間的な包容力と結びつき教育に身を置く者にとって重要な「資質」となる。 このような専門能力は、残念ながら指導者養成機関の教育内容としてカリキュラムに位置づけられてはいない。体育専門大学でさえ運動の指導力はもっぱら技能習得に置き換えられることが多く、そこに創発身体知と促発身体知の意味内容も区別されていない。模擬授業のように運動指導の実習が取り入れられても、そこではどうしても授業のマネジメント能力の養成に終始して、個人の運動問題へと切り込む能力の養成は難しい。 従って今後の研究は、運動問題の核心に迫る動感素材をどのように捉え、学習者と共有するのかという本質法則を明らかにすることである。そのことによって、指導者が備えるべき専門能力をさらに深く分析し、学習者の動感地平構造の機微へと肉薄する方法論の構築を試みる。具体的には次の項目について論考を進める。 ①指導者が捉える動感素材の存在論 ②指導者が選び出す動感素材の法則性 ③動感素材の他者との共有に関する法則性
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