本研究の目的は、体育あるいはスポーツにおける実技指導において、指導者が教えようとする動感的な目標像、あるいは動きかたのコツを伝える方法と手段に関する動感呈示の能力性について明らかにすることである。指導実践では、視覚的機器類の利用による呈示、あるいは示範や身振りないし擬声語を含めた多様な呈示方法を駆使することになるが、その前提として、「動感借問」の重要性を明らかにした(平成25年度)。 学習者が捉えている「動く感じ」は、直観的な事柄として私的な言語で捉えられていたとしても、それはぼんやりとしていて他人に表現することが難しい。まして本人にも気づかれない受動世界は語られるはずもない。しかし、その受動的な動きかたに問題がある場合、それを代行的に把握するのは指導者の専門能力である。その能力性の前提が、学習者に不足する「動く感じ(動感ヒュレー)」を読み解く様相化分析である。この分析能力が運動指導の基盤を形成することを明らかにした。(平成26年度)。 この学習者に不足する「動く感じ」は、価値意識をもつ動きの感覚質である。その感覚質に潜んでいる空虚な動感意識が受動的に充実したり、阻害されたりする様相変動のなかに、「動機づけ因果性」が探られるのである。このプロセスをたどる能力性によって、指導者は学習者の悩みと通底することになる(平成27年度)。それ故、この動感呈示能力を駆使する指導のあり方は、動物の調教的指導のような賞罰主義や、欠損する要素をはめ込もうとするモザイク主義とは対極に置かれるのである。
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