研究課題/領域番号 |
25560327
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
樋口 貴広 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 准教授 (30433171)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 視覚運動制御 / 歩行 / 高齢者 / 障害物回避 / 適応 |
研究概要 |
本研究では,高齢者の歩行能力に対する新たな評価の視点として,「身体に関する感覚入力情報が変化しても,それに瞬時に適応し,環境に即した最適な歩行パターンを選択できる能力」に着目した.実験では20名の高齢者,ならびに15名の若齢健常者を対象に,歩行中の隙間通過行動を測定した.参加者は3種類の長さの平行棒(身体幅の0.8倍,1.5倍,2.5倍)を2つの把持条件(棒の両端を持つ条件,または棒の中心を持つ条件)にて把持し,隙間を通り抜けた. 実験の結果,高齢者は全般的に,若齢者よりも隙間通過時の体幹回旋角度が大きく,また通過速度が低いことがわかった.ドアとの接触頻度については,参加者間で有意差は見られなかった.これらの結果から,高齢者は身体に関する環境変化に対しても,安全マージンを大きくすることで接触を回避できる能力があることを示唆している.一部の高齢者について,平行棒が長い条件で接触頻度が著しく増大した.それに対して平行棒の把持条件の影響は,相対的に少なかった.以上のことから,少なくとも一部の高齢者は,通過に必要なスペースが極端に広がることに対して,迅速な対応ができないことが示唆された.さらに一部の高齢者は,体幹回旋を開始する時点が,健常者よりも遅い(隙間通過ぎりぎりで回旋する)ことがわかった.この結果から,少なくとも一部の高齢者は,遠方の情報に基づいて予期的,かつスムーズに回避行動を遂行する能力が低下している可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた研究計画を着実に遂行できた.また少なくとも一部の高齢者については,隙間を安全に通過するための適応が,極端に身体条件が変わった場合に起きにくいことが明らかとなった.ただし平均としてみれば,実験に参加した高齢者は接触頻度が若齢者によりも有意に高いという傾向はなく,安全な行動を選択できているともいえる.よって高齢者が持つ潜在的な問題にアプローチするためには,個別の事例を今後詳細に検討する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた実験(適切な接触回避行動を促すための介入方略の検討)の前に,これまで行ってきた実験データの個別分析を行う.25年度の実験から,高齢者の行動特性にはいくつかのタイプがあることがわかった.この結果を受けて,まずはこれらのタイプがどのような特性を持つのかについて,詳細な検討を行う.これらの特性を理解した後,タイプごとにその問題の所在について検討を行い,その問題を解決するための介入方略について検討を行うこととする.
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次年度の研究費の使用計画 |
年度内に行ってきた実験成果が良好であり,当初予定していた実験の1つを実施する必要がなくなったため,必要経費が削減された.26年度の予算が申請していた予算よりも大幅に減額されたことを鑑み,26年度に予算を残して計画的に執行する方針をとった. 実験参加謝礼,および実験補助謝礼の使用に使う.
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