本研究では,高齢者の歩行能力に関する新たな評価の視点として,「身体に関する感覚入力情報が変化しても,環境に即した最適な歩行パターンを選択できる能力」について着目した。実験では,狭い隙間を通過する際の接触頻度や体幹回旋行動について検討した。実験の結果,認知症の疑いがなく,歩行機能も高い高齢者の場合,環境に即した歩行パターンを適応的に選択できることが分かった。ただし,「隙間を通り抜ける際に,できるだけ体幹を回旋しない」という空間的な制約を与えた場合,たとえ歩行機能が正常であっても,接触頻度が若齢者よりも有意に高くなった。この傾向は特に,歩行機能が低いほど顕著であった。
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