研究課題/領域番号 |
25560330
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
鈴木 崇人 神奈川大学, 人間科学部, 非常勤講師 (20638960)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シナジー / 下腿三頭筋 / 大腿四頭筋 |
研究概要 |
ヒトの各筋の活動は独立ではなく、多くの運動で同時に活動する小規模な組合せ(シナジー)が存在し、また相反性抑制などの様々な相互作用の影響を受けている。そこで、より現実的にヒトの動作を推定するシミュレーションを行うには、筋間の相互作用を検討し、関節の運動力学的変数との関係を明らかにしなければならない。本研究の目的は、筋間のシナジー及び抑制の関係を明らかにし、ヒトの現実的な筋活動を再現したシミュレーションを可能にすることである。1年目の研究では、筋間のシナジー及び抑制の関係を明らかにするために、等尺性足底屈中の下腿三頭筋に対する膝伸展筋群の活動の影響を明らかにした。 下腿三頭筋と膝伸展筋群の活動の関係について、30条件(足底屈強度10条件×膝伸展強3条件)において検討した。その結果、膝伸展筋群との同時活動によってヒラメ筋の活動は有意に増加することが明らかになった。この研究成果は、Influence of quadriceps force exertion on triceps surae activity during plantar flexionとして、2013年6月にバルセロナで開かれたヨーロッパスポーツ科学会議において発表した。 前述の研究で、下腿三頭筋の活動と膝伸展筋群のシナジーは特に足底屈強度が低い場合に顕著である可能性が示唆された。そのため、最大随意収縮の30%以下の強度での足底屈中の下腿三頭筋と膝伸展筋群の活動の関係を詳細に検討した。この研究成果は、Gastrocnemius and soleus are selectively activated when adding knee extensor activity to plantar flexion、としてHuman Movement Science誌に受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年目の研究として、静的な運動において条件をコントロールし、シナジーと思われる小規模な筋活動の組合せや筋間の抑制の関係を定量することを目的とした。対象は、下肢三関節の各関節の伸展の三つの組み合わせを予定していた。 足底屈と膝関節伸展については詳細に検討できた。それらの同時動作では、下腿三頭筋と膝伸展筋群の活動の関係を明らかにするだけでなく、その影響は足底屈強度に依存する可能性が示唆された。特に足底屈強度が低い場合には、膝伸展によって拮抗筋となる腓腹筋内側頭の活動が低下する、相反性抑制の概念に近い反応が起きた。これらの成果を一つの国際学会と一つの国際誌に発表できた。以上のことから、当初の予定の三つの組み合わせの内、足底屈と膝関節伸展の関係を明らかにすることは順調に進展した、と考えられる。 一方で、足底屈と膝関節伸展の同時動作における筋活動を詳細に研究した結果、解析項目が多岐に発展したため、足底屈と股関節伸展、膝関節伸展と股関節の二つの組み合わせについては研究がほとんど着手できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の研究により、下腿三頭筋と膝伸展筋群の活動には、足底屈強度が低い場合に特徴的な関係がみられた。足底屈強度が上がると、ヒラメ筋と腓腹筋の活動は片方の活動に比例して増加するが、膝関節伸展と同時に行った場合ではその割合が変化する可能性が示唆された。これは運動によって動員されるシナジーが切り替わることを直接示しているかもしれない。1年目の研究では、運動に応じた下腿三頭筋の筋活動量の変化を定量することを目的としていたが、この筋活動量の変化がシナジーの変化を反映しているか検討する必要がある。 そこで、2年目の研究では、下腿三頭筋と膝伸展筋群の活動の関係をさらに詳細に研究し、足底屈単独で行った場合と膝関節伸展と同時に行った場合のシナジーの変化を明らかにする。方法として、各動作における筋活動を定量し、それらを折れ線回帰や非負値行列分解で分析することでシナジーを抜き出す。 また1年目の研究では、足底屈強度が低い場合を詳細に検討したが、強度が高い場合にも特徴的な筋活動の変化がみられた。特に最大努力による足底屈と膝関節伸展との同時動作の場合のヒラメ筋の筋活動は足底屈単独の場合に比べて、約1.5倍になった。下腿三頭筋は他の筋群に比べて随意で活動させることが難しいことが先行研究により明らかになっているが、それが膝関節伸展が行われないことによるシナジーの動員不足により説明できる可能性がある。そのため、2年目の研究においては足底屈強度が高い場合も詳細に検討する。 2年目の後半には動的な運動を対象とする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
1年目の研究成果をまとめ、論文1編が受理され、1編を準備していたが、投稿・受理された時期が遅れてしまったため、論文掲載料や英文校正費などが次年度へ持ち越してしまった。また当初は足底屈と膝関節伸展の同時動作時の筋活動を定量することに目的にしていたが、筋活動量とシナジーの関係を折れ線回帰や非負値行列分解などによって解析するように発展したので、学会で発表するためにも次年度に持ち越している。また2年目の動的な実験のための機材を1年目に購入し、平行して予備実験を進める予定だったが、1年目の研究が遅れてしまったために次年度に持ち越された。 1年目の研究成果を発表するために、英文校正を数回、論文掲載料を3回以上、また学会への出張旅費として支出することを予定している。また2年目の研究の後半には動的な運動を対象にするため、それに適した筋電図計測装置やAD変換器などを購入予定である。
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