健康の維持・増進のためには、継続的な運動による筋の基質酸化能力の亢進が重要である。我々は筋形質に存在する酸素結合タンパク質であるミオグロビン(Mb)が、筋活動中のミトコンドリア呼吸活性の上昇に対して即時的に酸素を供給することや、運動トレーニングによって酸素解離がさらに加速すること等の知見を得た。さらに、最近、Mbがミトコンドリアの近傍もしくは内部に存在することを発見し、Mbとミトコンドリアとの直接的な相互作用の可能性を見出した。これらのエビデンスは、両者間の分子レベルでの密接な関係を強く示唆するものであるが、これまで全く検証がなされていない。本研究の目的は、細胞生物学的解析によってMbに相互作用するタンパク質の網羅的な探索を軸として、骨格筋ミトコンドリアの機能亢進の機序を解明しようとする萌芽的研究である。 H26年度では、H25年度までに樹立した遺伝子改変細胞株を用いて、プロテオーム解析やImmunoblottingを通じてMbに相互作用するタンパク質を同定することを試みた。用いた遺伝子改変細胞株はFlagタグ付きのMbを安定的に過剰発現している細胞である。この細胞のミトコンドリア画分からFlagタグが検出できた。つまり、この細胞のミトコンドリアにMbが局在(発現)していることを示す。また、Flag抗体によって免疫沈降した画分をプロテオーム解析した。同定されたタンパク質の内、約24%がミトコンドリアタンパク質であった。加えて、沈降物をImmunoblottingしたところ、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体タンパク質や外膜タンパク質などが検出された。これらの結果から、筋細胞内のMbの一部はミトコンドリアのタンパク質に直接的に相互作用し、ミトコンドリアの呼吸機能を修飾している可能性が示唆された。
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