研究課題
平成27年度は,骨格筋が生体恒常性に影響を与える機構について分子レベルで調べるために,昨年度までの探索研究により候補となった,いくつかの興味深い遺伝子に解析対象を絞った。その1つとして,甲状腺ホルモン結合タンパク質であるμクリスタリンに着目した。μクリスタリンはある種の筋疾患で異常発現が報告されているが,その生理的機能についてはわかっていなかった。我々は,μクリスタリン遺伝子およびタンパク質の発現を調べたところ,健常なマウスの骨格筋においても高いレベルで発現することを確認した。続いて,μクリスタリンの機能を調べるために,μクリスタリン遺伝子欠損マウスを用いた。μクリスタリン欠損マウスは,全身を通して臓器に顕著な異常は観察されないが,筋力が増強していた。トレッドミルによる比較的高強度の走運動を負荷したところ,野生型マウスと比べて高いパフォーマンスを示した。筋組織の横断切片で筋線維を調べたところ,速筋線維Type IIb線維が肥大していた。培養筋管細胞を用いた解析により,μクリスタリンを不活性化すると,インスリン感受性が増強された。長期の高脂肪食負荷による全身性に代謝ストレスを負荷したところ,野生型に比べ,μクリスタリン欠損マウスは代謝ストレスに対して抵抗性を示した。以上の結果から,μクリスタリンは代謝ストレスに対しては負に制御しているが明らかになり,骨格筋で発現するμクリスタリンは,生体恒常性を制御している可能性が示唆された。
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