研究課題/領域番号 |
25560341
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
福林 徹 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (70114626)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 膝関節 / 膝前十字靱帯損傷 / 感覚機能 / 運動制御 |
研究概要 |
平成25年度は、膝前十字靱帯(ACL)再建術が膝関節固有感覚及び下肢の巧緻性随意運動に及ぼす影響を運動学的観点から明らかにすることを目的に、2つの研究課題に取り組んだ。 研究課題1として、正確な膝関節固有感覚情報が欠落したと考えられる陳旧性ACL再建術後の選手を対象にマッチング課題(規範となる脚に他方の脚を合わせる課題)を行った。結果、①両側の正確な膝関節位置の把握が困難になるが、②低度の負荷(錯覚)を代償できることが示唆された。これまで、ACL再建術は術側の膝関節位置の把握や運動感覚の知覚を阻害することが報告されているが、術側と非術側がどのように関連しているかは明らかにされていなかった。これを踏まえ、術側と非術側の関連性を示した研究課題1の結果を学会にて発表を行った。 研究課題2では研究課題1に参加した者を対象にトレッドミル上での歩行解析を行い、①術側の接地様式に力学的変化が起こること、②歩行速度に関わらず、周期的な術側と非術側の下肢動作(リズム)は一定に保たれる可能性を明らかにした。従来の研究では、再建術後の歩行時の膝関節の関節運動のみが着目され、術側と非術側の歩容そのものの評価はされてこなかった。そのため、第60回Orthopaedic Research Societyでは、ポスター発表を行い、再建術後の歩容に関する新たな知見を報告した。 研究成果1、2より、ACL再建術者では、外科的再建術により身体的特異性が引き起こされることが明らかとなった。これより、術後の非可視的機能の改善の必要性が示唆され、効果的な神経系リハビリテーション法の指針・立案に寄与するものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はACL損傷・再建術が膝関節の感覚機能に与える影響、ACL再建術後の感覚機能の回復過程、ACLの感覚機能と身体運動の関連につい評価・検討し、ヒトの運動制御に感覚器として靱帯が担う役割を明らかにすることを目的としている。平成25 年度では陳旧性ACL再建術後の選手に対して膝関節固有感覚機能(膝関節位置覚)と身体運動(歩行時の健側と患側の下肢の動きの非対称性)との関連性を評価・検証した。その結果、片足に施されたACL再建術が両側の膝関節位置覚の知覚に変化を与えること、そして、歩行時には術側の接地様式に力学的変化が起こることが示唆されている。 これまで、ACL再建術に関する報告では術側の感覚・運動機能のみによる報告が主であるため、術側と非術側を同一課題に設定し術側と非術側の関連性を調査した本研究は再建術後にみられる身体的特異性に新たな知見を付与することとなる。現在までにACLが膝関節位置の知覚及び運動制御に貢献している可能性を示唆しているが、ACL再建術により阻害された感覚及び運動機能の回復に関しては、未だ不明な点が多い。また、ACL再損傷を含めた二次傷害予防やACL再建術者に特化した神経系リハビリテーション法の確立を目指した場合、再建術後の感覚・運動機能の回復過程と術側と非術側の関連性を引き続き縦断的に調査する必要がある。そこで、平成26 年度は平成25 年度の被検者の継続的調査を行い、再建ACL の感覚の回復過程と膝関節位置機能及び歩容の関連性を評価・検討する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に得られた結果を基に、平成26 年度は症例数を20 例まで増やすと同時に平成25 年度の被験者の継続的調査を行い再建ACL の感覚の回復過程と実験1、2 の関連性を評価・検討する。平成25年度では下肢関節角度、床反力、筋活動電位の運動学的観点から総合的に課題動作を評価する予定であった。しかし、筋活動電位計のアナログ出力箱の不具合により課題動作中の筋の活動を測定することができず、運動制御に貢献すると考えられる筋機能の評価を行うことができなかった。これまで、再建術後には大腿四頭筋の活動が低下しハムストリングスの活動が大きくなる現象が報告されており、代償的な筋の活動が引き起こされている可能性がある。そこで、平成26年度には新たなアナログ出力箱を購入し、課題動作中の術側と非術側の大腿の筋活動を計測する予定である。さらに、より詳細な関節運動と筋活動を同時に評価するために、3次元動作解析装置を用いた歩行及び走行の計測を行うことを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年度は平成25年度の測定を引き続き行うため。 平成26年度に予定している測定に必要な備品はすでに完備しているが、設備備品として平成25年度の測定時に不具合が生じた筋活動電位計測用のアナログ出力箱の購入を希望する。また、消耗品の大部分は動作解析用マーカー、筋活動電位計測用電極、固定用サージカルテープ等である。本研究ではACL 再建術後の選手と健常者を対象とするため、本実験参加者と実験支援者への謝礼を計上している。本研究結果は臨床的かつ学術的にも意義のある結果が得られると期待され、先見性を有する本研究結果を国内外の学会において発表し、学会誌への投稿を積極的に行う予定である。
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