研究課題/領域番号 |
25560344
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
橋本 健志 立命館大学, スポーツ健康科学部, 准教授 (70511608)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 認知機能 / 脳血流量 / 神経活動 / 乳酸 / 持久性運動 |
研究実績の概要 |
本研究は、運動効果の分子機序としての乳酸が、記憶などの脳機能にどのような影響をもたらすかを探究し、認知症改善への応用を目指すものである。そして、認知症の予防または改善に効果的な運動・栄養処方の確立のための学術的基礎の構築を目的としている。 当該年度では、ヒトを対象に、脳へのエネルギー供給が認知機能に及ぼす影響を明らかにすることを試みた。そのため、1)安静時に急性的な脳血流量の減少を引き起こすと認知機能が低下する、2)運動中の認知機能は,運動による脳血流量の変動による影響を受けている、という二つの仮説を検証し、認知機能に対する脳血流量の役割を明確にすることを目的として実験を行った。その結果、1)安静時に脳血流量を急性的に減少させると認知機能が低下したことから、認知機能を維持するためには脳血流量を維持することが必要条件であることが明らかとなった(Tsukamoto et al., Jpn J Physiol Anthropol 2014)。しかしながら、2)運動中に減少した脳血流量により認知機能は低下することはなく、むしろ運動効果により認知機能が亢進することを明らかにした。これらの結果から、脳血流量の変動は認知機能を変化させる要因であるが、運動中は脳血流量以外の何かが代償作用として働き、認知機能を維持・亢進させていると考えられた(Ogoh et al., Physiol Rep 2014)。 運動を行うと脳神経活動が亢進し、脳の酸素需要は高まる。また、運動中は脳での糖取り込みは減少する一方で、乳酸取り込みが亢進すること、そしてこれらの運動中の脳代謝応答は、脳血流量の変化による影響は受けないことが明らかとなっている。したがって、運動により脳神経活動が高まるが、この時のエネルギー源に運動誘発性の乳酸が積極的に利用されることで脳乳酸代謝が亢進し、認知機能を維持あるいは亢進していたと考察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、運動効果の分子機序としての乳酸が、記憶などの脳機能にどのような影響をもたらすかを探究し、認知症改善への応用を目指すものである。そして、認知症の予防または改善に効果的な運動・栄養処方の確立のための学術的基礎の構築を目的としている。 昨年度までに、動物を対象として乳酸を基軸としたサプリメントと運動を併用した結果、脳機能亢進に関わると考えられるタンパク質群の発現増大を認めた。今年度は、運動誘発性の乳酸を中心に、ヒトの脳血流量と認知機能の関係性を明らかにすることを研究目的とし、乳酸代謝と神経活動の亢進が認知機能亢進に重要である可能性を示唆することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、運動効果の分子機序としての乳酸が、記憶などの脳機能にどのような影響をもたらすかを探究し、認知症改善への応用を目指すものである。そして、認知症の予防または改善に効果的な運動・栄養処方の確立のための学術的基礎の構築を目的としている。 今後は、ヒトを対象に、神経活動の亢進や乳酸産生の増加を惹起できるような運動を施行し、認知機能が向上するかを検討する。具体的な運動方法としては、レジスタンス運動や高強度間欠的運動などである。また、実際に運動中、そして運動後の脳内代謝動態を解析する必要があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該支出に関わる実験に関連した他の研究費を執行することができ、余剰分を成果発信のための学術論文執筆・公表のための費用に充てることができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、学術論文にまとめることが可能な研究成果が幾つか出ている。 それら成果発信のための学術論文執筆・公表のための費用に充てる。
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