ストレスの多い現代、精神的な健康を自己管理することの重要性を背景に、日常生活の中でメンタルヘルスに資する様々な健康法が提案され、実践されている。その想定される効果メカニズムとして、心と身体の関係を調整するものと、心と社会の関係を調整するものがある。代表者は様々な自己に関する脳機能マッピング研究の成果に基づいて、行動出力とフィードバック入力の連合(「スキーマ」)が環境とのインタラクションの中で3階層に発達する「自己3層脳モデル」を提案している。これによればこれら2つの関係性の認識・調整には異なる脳領域が関与すると考えられ、例えば自己身体の認識には側頭葉後部(ITG/MTG)、縁上回(SMG)、島皮質(insula)等が、自己と社会との関係性の認識には側頭極(TP)、前頭前野背内側(dMPFC)、前頭前野腹内側(vMPFC)、帯状回後部(PCC)が関係すると考えられる。本研究では、自己3層脳モデルに立脚して、健康法の効果メカニズム解明を目指した。平成27年度は写真療法の効果脳メカニズムの解明を目指し、「自分の価値観に基づいた主体的な意思決定」とその感情改善効果の神経基盤を解明した。さらにこれまでの成果を広範な年代と生理基盤に拡張する研究に着手し、加齢に伴う身体・社会環境変化への適応として近年の知見が自己3層モデルで整理できること、また自己と社会の適応的認識に重要な役割を果たす感情制御機能が、末梢オキシトシン濃度と相関することを明らかにし、今後の本研究の成果が広範な年代と生理基盤に拡張できることを示した。
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