研究課題/領域番号 |
25560356
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
酒谷 薫 日本大学, 工学部, 教授 (90244350)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 鍼灸 / 補完代替医療 / ストレス / 抑うつ / 前頭前野 / 近赤外分光法 / 脳機能 / 脳血流 |
研究概要 |
ストレス課題(暗算)遂行時の前頭葉活動をNIRSにより計測する予定であったが、課題を繰り返す毎に神経活動強度(酸素化ヘモグロビン濃度変化:Δ酸素化Hb)が低下することが観察された(疲労現象)。そこで、最近開発した安静時のΔ酸素化Hbよりストレス度を評価する方法をテストした。本法は、2チャンネルNIRSを用いて安静時(3分間)の左右前頭葉のΔ酸素化Hb(ゆらぎの振幅変化)を積分し、左右偏倚指数(LIR)を求めるものである[1]。LIRは、([右Δ酸素化Hb]―[左Δ酸素化Hb])÷([右Δ酸素化Hb]+[左Δ酸素化Hb])で示され、プラス値は右優位、マイナス値は左優位を示す。LIRは、State Trait Anxiety Index(STAI)-1(状態不安)と正の相関関係を認め、右優位はネガティブ、左優位はポジティブな感情を示す”Valence asymmetry hypothesis”と一致しており、リラクゼーション効果を検討するには有用と考えられた。 次に、本法を用いて、抑うつ患者を対象に鍼治療効果のパイロットスタディーを行った。鍼治療は鍼灸師により実施した(結鍼灸院、大阪)。経穴は合谷等を使用し、鍼通電を15分間実施した。結鍼灸院を受診した抑うつ患者10名を対象とした。鍼治療により、STAI-1(状態不安)は、50.8±9.04から41.0±10.1に低下した (p < 0.001)。LIRは、7例では-0.0319±0.139から-0.159±0.0937に低下した(p<0.01)。これらの結果は、鍼治療により前頭葉の活動が左側へシフトし、不安心理状態が改善した可能性を示唆している。 [1] Journal of Biomedical Optics 19(2), 027005 (February 2014)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NIRSを用いた鍼灸によるストレス緩和効果の評価法に関しては、平成25年度の研究により確立できたと考えている。本法は、認知課題を使用する従来の脳機能解析法と異なり、安静時のΔ酸素化Hb(ゆらぎの振幅変化)を解析するため、認知課題に対する疲労現象がなく、繰り返し計測できる利点がある。また、認知課題を遂行することが困難な高齢者でも実施できるので、高齢者を対象とした鍼灸の治療効果も検討できるものと思われる。 また、平成25年度は健常人を対象に研究を進める計画であったが、NIRSによる安静時脳機能計測法が確立できたため、平成26年度に予定していた抑うつ患者を対象とした研究を前倒しして開始することができた。しかしながら、患者を対象とした実験では負担を出来るだけ軽減する必要があるため、自律神経機能に対する評価は不十分であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に確立した2チャンネルNIRSを用いたストレス評価法を用いてストレス性疾患や抑うつを対象とした臨床研究を継続発展させる。特に平成25年度に十分に検討できなかった自律神経機能に対する鍼治療の効果に付いても研究する。我々は、既に健常人を対象とした研究で、心拍変動 (Heart Rate Variability)などの自律神経機能評価法を用いて鍼治療(合谷)によるストレス緩和効果を報告しており [1]、同様の方法を用いて実証していく予定である。 平成26年度以降の研究では時間分解スペクトロスコピー (TRS: time-resolved spectroscopy)を用いて安静時の酸素化Hb濃度の絶対量についても分析し、鍼灸治療の長期的効果について検討する。 さらに、最近開発したTRSによるワーキングメモリーの定量的評価法を用いて [2]、鍼治療の高次脳機能に対する効果に付いても検討する予定である。 [1] Sakatani K, et al. Effects of acupuncture on autonomic nervous function and prefrontal cortex activity. Adv Exp Med Biol. 2010;662:455-60. [2] Tanida M, Sakatani K, et al. Relation between working memory performance and evoked cerebral blood oxygenation changes in the prefrontal cortex evaluated by quantitative time-resolved near-infrared spectroscopy. Neurol Res. 2012 Mar;34(2):114-9.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、NIRSの計測・解析用のPCは従来より使用していたシステムを用いて実験を行った。また、鍼灸治療に用いる器具は共同研究者より無償で供与を受けたため購入する必要がなかった。これらの理由により、物品費が当初予定した金額より下回ったものと思われる。また、本研究に関する学会発表や論文発表の機会が予定より少なかっため、旅費も当初の予定額を下回ったものと思われる。 平成26年度は、郡山市内と大阪の鍼灸院(結鍼灸院)で研究を行い、研究対象となる症例数を増やす計画である。このため、NIRSの計測・解析用のPCを新たに1セット購入する予定である。これに伴い、鍼灸治療に要する器具も購入する予定である。さらに、平成26年度は国際学会(42nd Meeting of the International Society on Oxygen Transport to Tissue;6月28日~7月3日;ロンドン)及び国内学会(日本中医学会;9月13日、14日;東京)で発表する予定である。
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