研究課題/領域番号 |
25560356
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
酒谷 薫 日本大学, 工学部, 教授 (90244350)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | NIRS / prefrontal cortex / acupuncture / stress / anxiety / relaxation / asymmetry / neuronal activity |
研究実績の概要 |
平成26年度は、ストレスによる抑うつ患者(女性9名、男性1名、平均年齢41.8±6.8才)を対象に、鍼灸治療前後に不安心理状態と前頭前野の神経活動を測定し、鍼灸治療の神経基盤を検討した(Adv Exp Med Biol.2015 in press)。鍼灸師により各患者の中医学的診断に基づいて経穴(WHO-GV23, GV20, GV9等)を選択し、鍼を15分間捻転させて治療した。鍼灸治療前後で状態・特性不安検査(STAI)を実施した。平成25年度に開発した2チャンネルNIRSによる前頭前野の安静時神経活動の左右優位性による不安心理状態の客観的評価法(J Biomed Opt. 2014)を用いて鍼灸治療効果を検討した。鍼灸治療により、STAI-1(状態不安)は50.8±9.04 から41.0±10.1 に有意に低下した(F(1,8)=15.9, p<0.005)。一方、STAI-2(特性不安)は有意な変化を認めなかった。NIRS計測では、安静時の前頭前野神経活動(酸素化ヘモグロビン濃度変化)の揺らぎが鍼灸治療前後の何れでも認められた。興味深いことに、7例において安静時の神経活動は右優位から左優位に変化した。我々の研究では、この変化はストレス反応(Brain Res.2007, Neurosci Lett.2008)と不安心理の軽減(J Biomed Opt. 2014)と強い相関が認められており、鍼灸により抑うつ患者の前頭前野の神経活動パターンが変化することに伴い不安心理状態が改善したものと推察される。平成26年度の研究結果は、抑うつに対する鍼灸治療効果の神経基盤には前頭前野が関与していることを示唆している。また、NIRSによる不安心理状態の評価法(J Biomed Opt. 2014)は、鍼灸などの非薬物療法の治療効果を客観的に評価するうえで有用と思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究により、鍼灸の治療効果の神経基盤に前頭前野が関与することを明らかにした。すなわち前頭前野の安静時神経活動の左右優位性が変化することにより不安心理状態が改善したことは新しい知見である。このような前頭前野の活動パターンの変化は、香りによるリラクゼーションでも報告しており(Neurosci Lett.2008)、ストレス緩和効果の共通のメカニズムである可能性が示唆される。 しかし、平成25年度、26年度の研究では自律神経機能などの身体的ストレス反応の計測が不十分であった。また、症例数が少なく年齢による効果の差異などを検討することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、調査対象を若年成人から高齢者を含む幅広い年齢層に症例数を増やし、治療効果と年齢の関係や性差などについて検討する。 さらに、鍼灸の自律神経機能に対する効果を検討するため心拍を計測し、HRV(心拍変動)により検討する予定である。我々は過去の研究においてHRVにより自律神経のストレス反応を計測している(Brain Res.2007)。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の研究は、協力医療施設を受診する抑うつ患者を対象としたため謝金などを支払う必要がなかった。またNIRS測定や心理テストなども協力医療施設に兼務する看護師、検査技師、鍼灸師などが実施した。このため平成26年度に予定していた人件費・謝金の実支出額がゼロとなり、未使用金(374、626円)が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、高齢者を含む幅広い年齢層の有償ボランティアを対象した調査研究を行う予定である。有償ボランティアは約30名を予定し、謝金は1万円/1名を想定している。また、NIRS計測を実施する大学院生に対する謝金(約7万円)を予定している。これらの支出は平成26年度の未使用金でまかなう予定である。
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