日本人女性の乳ガンの罹患率は増加の一途を辿り、現在では胃ガンを抜いてトップになっている(平成23年人口動態統計)。近年、大規模疫学研究により、運動量と乳ガン発症、再発や死亡率との関係が明らかとなってきている。「活動的な生活習慣の女性は乳ガン発症率が低い」とする研究結果は、国内外のコホート研究で示されており、さらに、乳ガン診断後に身体活動量が増えた女性は、身体活動量が少ない女性より死亡する頻度が有意に低い(0.6倍)という、運動による乳ガン増殖・転移抑制効果も報告されている。しかし、「なぜ運動は乳ガンの発症を減らすことができるのか?」という、分子機序に関しては全く研究が行われていない。近年、骨格筋から分泌される分子、いわゆるマイオカインが、生体の代謝機能に影響を及ぼすことが明らかとなってきた。そこで本研究計画では、身体活動による乳ガン抑制効果に骨格筋由来因子が関与しているとの仮説を建て、骨格筋由来因子がガン細胞の増殖能に及ぼす影響を検討した。3種類のヒト乳ガン細胞株(MCF-7、MDA-MB-231、BT-474)を骨格筋由来因子(A、B)と共に培養し、48時間後に細胞増殖能を測定した。骨格筋由来因子AはMCF-7細胞株において細胞増殖能を低下させることが明らかとなった(p<0.05)。しかし、MDA-MB-231およびBT-474細胞株においては、骨格筋由来因子Aの細胞増殖能への影響は認められなかった。一方、骨格筋由来因子Bは、予想に反して、すべての細胞株において細胞増殖能を向上させた。これらの結果から、骨格筋由来因子の細胞増殖抑制効果は、ガン細胞の種類によりに異なること、また、ガン細胞の増殖能を向上させる骨格筋由来因子が存在する可能性が示唆された。
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