多くの自治体等により高齢者の転倒予防介入が実施されてきたが,現在なお転倒事故数は多いのが現状である.高齢者の転倒状況に関する調査を行った先行研究によると,高齢者が転倒する時間帯は朝や夕方に集中していると報告されている.このように①高齢者がバランス制御に失敗(つまり転倒)する頻度は,ヒトの様々な生体機能の持つ概日リズムのように,時間に依存した日内変動を伴う.又,健常成人は立位時に視覚情報を制限されると,視覚への依存度を低下させ,他の感覚への依存度を高めることでバランスを維持することも明らかにされている.このように②ヒトはバランス安定化の方略を,状況に合わせて時々刻々と変化・適応させている.本研究の目的は①(長時間スパン)及び②(短時間スパン)の両視点から,時間とともに変動するバランス制御特性を明らかにし,高齢者の転び易さを評価する新たな方法と,高齢者転倒予防支援のための新アプローチを提案することである.この目的を達成するために,平成25年度には実験システム構築と分析手法の検討,平成26年度から27年度には健常成人,転倒未経験高齢者,及び易転倒高齢者の3群を対象とした身体動揺測定とその分析,及び転倒経験に関する縦断的なアンケート調査を実施する.当該年度においては,前述の研究実施計画に基づき,予備実験を通した実験システム構築と分析手法の検討を遂行した.予備実験では,複数回反復される測定による身体への負担や転倒の危険性を考慮し若年成人を対象とした.実験システムは暗幕,照明器具,照度計,エアコン等を用いて,段階的に実験室内の明るさ及び温度を調整できる実験室と,可搬型フォースプレートを用いた身体動揺測定器から構成される.分析手法は,予備実験データに対する解析を通し時間周波数分析法の1つ「Wavelet変換」を選択した.Wavelet変換の基底関数はComplex Morletとした.
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