目的: 多くの自治体等により高齢者の転倒予防介入が実施されているが,現在なお転倒事故は多く,高齢者の要介護化の原因の一つとなっている.よって転倒予防は介護予防の観点からも解決して行くべき喫緊の課題と言える. 高齢者の転倒状況に関する先行研究において,高齢者の転倒事故は特定の時間帯に多い事が報告されてきた.つまり,①高齢者がバランスを崩し転倒する頻度は,ヒトの各種生体機能における概日リズムのように,時間に依存した日内変動を伴う.また,ヒトは立位時に視覚情報を制限されると,視覚への依存度を低下させ他の感覚への依存度を高めることでバランスを維持することも明らかにされてきた.つまり,②ヒトはバランス安定化の方略を状況に合わせて時々刻々と変化・適応させている. 本研究の目的は,①「長時間スパン」及び②「短時間スパンの両視点から,時間とともに変動するヒトのバランス制御特性を明らかにし,高齢者の転倒のし易さ(易転倒性)を評価するためのアプローチ法を模索することであった. 実施計画: 平成28年度は,上記目的②を達成するために,健常成人及び健常高齢者を対象とし,立位条件の一時的変化(視覚入力の遮断)に対するヒトのバランス制御機能の適応に関する検討を行った.また,②において対象とした高齢者のうち,過去一年に転倒経験のあった一部の高齢者を対象とし,研究目的①を達成するためにバランス制御機能における日内変動(起床から就寝まで3時間毎)を調べた. 健常成人は,高齢者に比べ,立位時に立位条件の一時的変化(視覚入力の遮断)が生じてもバランス制御特性(身体重心の揺れの周期性)の変化が少ない傾向にあった.一方,高齢者は立位時に視覚入力が遮断されるとバランス制御特性の急な変化が認められるケースがあった.またそのバランス制御特性の急な変化は一日のうち,日中や晩に比べ早朝において顕著である傾向がみられた.
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