研究課題/領域番号 |
25560374
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 和洋女子大学 |
研究代表者 |
湊 久美子 和洋女子大学, 生活科学系, 教授 (70211589)
|
研究分担者 |
代谷 陽子 和洋女子大学, 生活科学系, 准教授 (80183408)
黒坂 裕香 和洋女子大学, 生活科学系, 助手 (30633002)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 慢性膵炎 / 肥満 / 運動習慣 / 膵内外分泌機能 / 膵B細胞 / 膵腺房細胞 / 電子顕微鏡像 |
研究概要 |
脂質代謝異常を伴う非アルコール性慢性膵炎の予防治療に対する運動療法の有効性を解明することを目的に,6週齢の慢性膵炎肥満動物(WBN/Kob Fattyラット)を飽食の肥満群6匹,69%制限摂餌の制限食群6匹,70%制限摂餌と平均1804m/日の自発走の運動群5匹に群別し,食餌制限と運動を6週間介入した.最終体重は肥満群が最も多く,他2群では体重増加が同程度に抑制された.ヒラメ筋重量は運動群が最も多く運動効果が得られた.肥満群では脂肪肝が視認され肝重量も最も多いが,他2群は改善傾向にあった. 血中TGとNEFAは肥満群で有意に高いがNEFAは制限食群でも高く,脂質代謝の改善は運動群で大きかった.血中アミラーゼと血糖値は肥満群で高く,インスリンは制限食群で高かった.肥満群では膵の炎症と膵臓B細胞の機能低下による高血糖が,制限食群ではインスリン抵抗性が,運動群ではそれらの改善が示された.膵重量は運動群で最も多く運動結果が認められた.膵酵素含量を表す膵組織中蛋白含量は肥満群で少ないが制限食群,運動群では高かった. 膵組織の光学顕微鏡像では,肥満群では内外分泌部が入り乱れて炎症した組織,ばらけた内分泌部,萎縮した外分泌部などが観察され,制限食群と運動群では球形の内分泌部(ラ島)が認められた.電子顕微鏡像では,B細胞の肥満群ではインスリン顆粒が明らかに少なく,膨化したミトコンドリア,いびつな核など異常構造が観察された.他2群では顆粒が多かった.腺房細胞の肥満群では,粗面小胞体が低密度で酵素原顆粒が少なく,運動群のそれらは高密度で多かった. 肥満を伴う慢性膵炎ラットでは膵機能が低下し,肥満の改善は膵の構造や機能を改善させ,特に運動習慣により脂質代謝,糖代謝指標の改善と膵内外分泌細胞の構造の改善が一致して認められ,慢性膵炎の予防治療に運動が禁忌であることを見直す必要性の根拠が得られた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画に記載した実験を概ね終了させた.6週齢の慢性膵炎肥満動物(WBN/Kob Fattyラット)を対象に,自由摂餌で飼育した飽食肥満群6匹,飽食群の69%制限摂餌となった制限食群6匹,加負荷式自発運動測定装置を用いて体重の30%の負荷をかけた回転輪による自発走を負荷して平均1804m/日の走行量となった運動群5匹を作成した.運動群の摂餌量は制限食群と体重が一致するように制限した結果70%制限摂餌となった.研究計画通り,血液,膵,肝,骨格筋を採取した. 血中のトリグリセリド,遊離脂肪酸,コレステロール,グルコース,インスリン,アミラーゼの分析を行い,飽食肥満群での高値(インスリンは低値)と他2群での改善,一部の項目は運動群でより高い改善が認められた. 膵は膵酵素量を反映する組織中蛋白を測定し,運動群で最も高いことが確認された.組織学的解析では,ヘマトキシリン・エオジン染色,インスリンおよびグルカゴン免疫染色による光学顕微鏡像の解析を実施し,ランゲルハンス島の形状やホルモン貯蔵部位,炎症部位などが判別され,膵炎肥満による組織劣化と食事療法,運動療法による改善が確認された.電子顕微鏡像ではラ島内のA細胞,B細胞と膵腺房細胞を観察し,飽食肥満群では細胞内小器官の構造異常や脂肪滴が確認され,食事療法,運動療法による改善が認められた.これらの解析項目についていずれも運動療法による悪化傾向は認められなかった. また,研究計画に記載した「①慢性膵炎の症状(膵組織内の浮腫や線維化,外分泌機能の低下,インスリン抵抗性)の確認,②食事療法による①の症状の低減効果の検討,③運動療法による①の症状の低減効果の検討,④②と③の比較により運動療法の意義を検討する」のうち,①は確認できた.②③についても概ね確認できたが④については今後さらなる検討が必要である.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの実験で採取した血液と組織の分析をさらに進める.血中項目のうち,レプチン,アディポネクチン,TNF-αなどの脂質代謝と炎症に関連するサイトカインを分析する.また,骨格筋組織と肝組織の分析を進める.これによって食事療法と運動療法の違いを明らかにできると考える.また,当初予定していた食事療法IIの低脂肪食群の作成は作成にかかる費用の面から断念する.その代わりに再現性の確認と各群の個体数の追加のために再度同様の実験を実施し,その際,肥満ではないWBN/Kobラット(非肥満膵炎モデルラット)の群を追加作成する.これにより,肥満によって膵炎や糖尿が加速されること,そのために起きる膵の組織や細胞が劣化する影響を明確にすることが可能となり,肥満の予防や改善が慢性膵炎や糖尿病の予防や治療に有効であることを指摘することができると考える. また最近,細胞内での蛋白合成時に起こる「小胞体ストレス」が糖尿病や動脈硬化など様々な疾病の成り立ちに関わっていることが指摘されている.電子顕微鏡像によって確認している肥満ラットの膵腺房細胞で認められる,密度が低く乱れた祖面小胞体と膨化したミトコンドリアは小胞体ストレスとの関連性が窺われる.小胞体ストレスの指標となるIRE1,XBP1などの蛋白や,炎症の指標となるPAP,IL6などの蛋白について膵組織を用いてウェスタンブロッティング法で解析し,電子顕微鏡像による結果や脂質代謝・糖代謝指標との関連を検討する.これらの検討により,食事療法や運動療法による肥満の改善が膵疾患の予防や治療に有効であるメカニズムや,食事療法と運動療法の違いのメカニズムの一端を明らかにできると考える. 今年度の計画は,①昨年度の実験で採取したサンプルの分析の継続,その際,新たな「小胞体ストレス」の指標となる項目の追加,②昨年度の実験の再実施,その際,非肥満群の追加 以上である.
|
次年度の研究費の使用計画 |
実験経費(試薬,分析用消耗品など)を交付額内で最も有効に購入した結果,次年度使用額が発生した. 実験経費(試薬,分析用消耗品,組織学的分析費など)に使用する.
|