悪液質は、癌や慢性心疾患、AIDS、敗血症等で誘発される複雑な代謝性疾患である。特に癌悪液質では、化学療法や放射線治療の治療効果を阻害するだけでなく、患者のQOLを著しく低下させる。癌悪液質は、著しい体重の減少によって特徴づけられ、主に骨格筋の著しい萎縮に依存するものとされている。骨格筋萎縮誘発条件下において、オートファジーの活性化が報告されている。申請者はヒトがん患者より採取したがん細胞を移植した担がんマウスの骨格筋萎縮進行過程にautophagyの関与を見出した。しかしながら、癌悪液質誘発性骨格筋萎縮進行時、オートファジーを誘発するメカニズムについて検討した研究は少なく未だ一致した見解は得られていない。本研究では、悪液質環境下で筋芽細胞培養を行い、癌悪液質における骨格筋萎縮進行過程時におけるオートファジーの誘発因子について免疫組織学的手法・電子顕微鏡学的手法を用い検討した。筋芽細胞培養時に悪液質環境を作製するため、 がん細胞を2日間培養した培地を用い筋芽細胞の悪液質環境を設定した。また、TNFαを至適濃度で添加した培養液中で筋芽細胞を培養し、筋芽細胞及び分化させたmyotubeについてLC3とp62の発現について免疫蛍光染色を行った。また一部の細胞は電子顕微鏡による観察を行った。がん細胞培地にて培養した筋芽細胞及びmyotubeでは、多くのLC3及びp62の免疫陽性反応が認められた。また、TNFα添加して培養した筋芽細胞及びmyotubeでも同様の結果が認められた。電子顕微鏡的観察では、悪液質環境下で培養した筋芽細胞及びmyotubeでは、オートファゴソーム様構造が観察された。これらの結果は、オートファジーが癌悪液質における骨格筋萎縮進行過程に関与する可能性を強く示唆するものであり、その誘導にはがん細胞が合成する炎症性サイトカインが関与する可能性が考えられた。
|