研究課題
挑戦的萌芽研究
愛着障害(RAD)は、子どもへの不適切な養育(虐待・ネグレクト)による親子間の愛着形成の歪みから引き起こされる。行動面では、注意が持続しない、落ち着きがないといった注意欠陥多動性障害(ADHD)と似た症状を呈し、学習や対人関係、社会活動に支障をきたす。本研究では、fMRIを用いて愛着障害の神経基盤を明らかにする。さらに、「小児期愛着形成障害の発症メカニズム」を理解することにより、愛着障害に対する神経科学的基盤に立脚した予防法・治療法の開発を目指している。本年度は、RAD患児8名(13.8±2.0歳)と対照となる定型発達児8名(12.9±1.7歳)に金銭報酬を伴うカードめくり課題を行い、fMRIで神経賦活度を測定し、Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ;子どもの強さと困難さアンケート)による情緒・行動の重症度質問紙との関連を調べた。その結果、①RAD群では定型発達群と比べて、金銭報酬の高低にかかわらず、金銭報酬獲得時の右側線条体(被殻・尾状核)の賦活度が低下していた (p < 0.05)。すなわちRAD患者の報酬への感受性低下が示唆され、線条体経路のドパミン機能不全の関連が示唆された。また、脳活動とSDQ全体スコアに負の相関がみられ、情緒・行動の困難さが強いほど脳賦活値が低かった(r = -0.53, p = 0.03)。②ADHD患者では低い金銭報酬fMRI時の賦活度低下があり、その感受性の低さは投薬によって回復する可能性が示唆されているが、RAD群ではADHDのように低い金銭報酬で特異的に線条体の賦活が低下することは認められなかったことから、ADHDと鑑別するマーカーとなる可能性が検討された。今後さらに被験者数を増やし研究を進めることで、RADの報酬系機能低下のメカニズムや薬物療法などの治療効果を評価したい。
2: おおむね順調に進展している
愛着障害(RAD)群では定型発達群と比べて、金銭報酬の高低にかかわらず、金銭報酬獲得時の右側線条体(被殻・尾状核)の賦活度が低下していることを、当該年度の成果で確認できたため。
オキシトシン点鼻薬または偽薬の単回投与前後に、fMRI検査(報酬系課題・顔表情認知課題)を行い、脳活動変化および過覚醒の改善を評価する。健常者群と愛着障害患者群の二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験をする。最終的にその成果を国際学会で共同発表する。
最終年度において、今後の推進方策を遂行する必要があるため。1. 愛着障害患児へのOT点鼻薬または偽薬の単回投与前後の脳画像解析 OTまたは偽薬の単回投与前後に、fMRI検査および皮膚電気反応検査を行い、脳活動変化および過覚醒の改善を評価する。健常者群と愛着障害患者群の二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験をする。2. 脳MRI(形態画像)解析による愛着障害の神経基盤の解明 愛着障害患児の脳形態学的異常の有無をVoxel Based Morphometryを用いて明らかにする。3.顔表情認知課題fMRIによる愛着障害の神経基盤の解明 顔表情認知課題神経賦活の側面からfMRIを用いて比較検討する。fMRI用認知課題の開発およびfMRIデータ画像統計解析を行う。4.最終的に得られた成果を、国際日本児童虐待防止会議(名古屋)および日本児童青年精神医学会(浜松)にて発表し、他の研究者との情報交換によりこれまでに得られた成果を検証する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件) 図書 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 2件)
Brain Dev
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.braindev.2013.08.006
J Zhejiang Univ Sci B
巻: 15 ページ: 264-71
10.1631/jzus.B1300133
助産師
巻: 68 ページ: 20-23
NeuroImage: Clinical
巻: 2 ページ: 366-376
10.1016/j.nicl.2013.03.004
Clinical Neuropharmacology
巻: 36 ページ: 151-156
10.1097/WNF.0b013e3182a31ec0
BMC Psychiatry
巻: 13 ページ: 281-210
10.1186/1471-244X-13-281
教育と医学『特集 体罰をなくすには』
巻: 61 ページ: 636-643
児童青年精神医学とその近接領域
巻: 54 ページ: 260-268
分子精神医学 『特集 家族関係の行動神経基盤』
巻: 13 ページ: 243-250
Clinical Neuroscience『特集 海馬とその周辺』
巻: 31 ページ: 1441-1445
小児内科『特集 クローズアップ 新しい子どもの病気』
巻: 45 ページ: 2013-2016