研究実績の概要 |
初期歩行の遅れや不安定な歩行を呈する乳幼児の相談が増え,より具体的な対策が望まれている.我々は,初期歩行後の乳児に約2gの浮力が発生するヘリウムガス入り風船の紐を把持させると歩行時の身体動揺性が減少し,歩行距離が延長することに気付いた.本研究では,5歩以上独歩が可能となった初期歩行期から4~7週を経過した乳児を対象(一部の被験児は6週間の継時的評価)とし,風船を把持した乳児の歩行周期中の身体動揺について検証した.計測方法は,WalkウェイMW-1000(アニマ社製)と5台のデジタルビデオカメラ,体幹腰部に貼付した小型3軸加速度計を用いて検証した.被験児には約5.0mの歩行路(計測距離は約2.0m)を歩行させ,数回の練習ののちに風船を把持した場合と把持しなかった場合,風船以外のおもちゃ(ガラガラ)を把持した場合の体幹加速度や足底圧を可能な限りランダムに計測した.体幹加速度は各軸ごとに二乗平均平方根(Root mean square error;RMS)を算出し,体幹の動揺の指標とした.また,足底圧データから各被験児のステップ毎の歩幅,歩隔,足底圧軌跡長,足底圧中心を算出した.左右ステップ時の足底圧中心の差(cm)を左右脚への足底圧中心の移動距離を示し,各ステップ時の足底圧中心の変動係数を各立脚支持時の足底圧中心の変動を示した.風船の有無において統計学的に比較した.各被験児の風船の有無で歩幅,歩隔,各左右下肢への足底圧軌跡長には有意差はなかった.一方,風船を把持させた場合の各立脚支持期中の足底圧中心の変動係数は有意に低値(p<0.01)を示した.また,体幹動揺の指標であるRMSは,風船把持時には有意に低値(p<0.05)を示した.乳児期の風船把持は,左右脚へのウェイトシフト時の姿勢制動への効果は低いものの,左右の各立脚支持時には体幹等の動揺性が減少し,乳児期の身体動揺に対する風船把持効果を示唆したと言える.
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