●研究目的 本研究の目的は、「子どもの安全保障」学(child security studies)を構築することであった。これまでの「人間の安全保障(human security)」をめぐる政策的および理論的な発展を踏まえたうえで、人権・平和・開発という三つの領域を統合的にとらえる学際的なアプローチを用い、子どもの安全という課題を分析するためのモデルを提示しようとした。そして、そのモデルの有効性を実証的に検討するために、国際的な文脈において子どもたちが直面する複合的な脅威を事例として取り上げて、その脅威の現状を把握したのち分析すると同時に、とくに脆弱な立場に置かれた子どもたちの生活環境を分析した。そして、脅威そのものを軽減するための保護戦略と、脅威に対峙する子どもたちの能力を強化するためのエンパワーメント戦略を政策的に位置づけた。 ●研究方法: 第1に、「子どもの安全保障」モデルの叩き台を例示した。同時に、モデルの有効性の実証的検証へ向けて、人権・平和・開発の三つの領域から複数の事例を選択し、個々の事例を研究した。第2として、個々の事例につき中間発表し、人権・平和・開発の三つの領域それぞれにおいて「子どもの安全保障」モデルの有効性を検討した。第3に、総括的な意見交換を行い、研究成果を「子どもの安全保障」学として刊行するために準備した。以上の研究推進においては、早稲田大学アジア太平洋研究センターに設置されている「開発と人権」研究部会を研究拠点とした。 ●研究成果: 成果の一つとして、「子どもの安全保障」モデルを提示することによって、学問的な研究領域の違う研究者に対して、複合的な脅威に直面する子どもへ統合的にアプローチする新しい方法論を提案した。その結果、「子どもの安全保障」学という新しい研究が学際的な共同研究によって発展することが期待される。
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