ケージド化合物は、光分解保護基を生理活性分子に組み込むことで、その分子機能を高い時空間分解能で光制御できることから、生命科学研究において汎用されている。一方、ケージド化合物の多くは、紫外線照射を必要とし細胞損傷の危険性や光透過性の低く、長波長光照射が可能な分子の開発が望まれている。本研究では、光受容蛋白質PYPを利用することで、可視光領域で構造変換する新たなコンセプトに基づくケージド化合物の開発に取り組んだ。 PYPは、4-ヒドロキシ桂皮酸チオエステル誘導体をリガンドとして共有結合することが知られており、リガンドが遊離状態では紫外線を吸収するのに対し、PYPに結合することによって可視光を吸収する。H25年度の研究では、この性質を応用して、可視光を吸収し構造変換する分子を設計・開発した。まず、桂皮酸の2位にヒドロキシ基を導入することで、可視光照射に伴うcis-trans異性化反応が起こるとともに、ヒドロキシ基がPYPとのチオエステル結合部分を攻撃し、PYPから解離しウンベリフェロンが生成するように設計した分子DHCA-TPを合成した。その結果、ウンベリフェロンの生成は、PYPと結合させ光照射することにより加速することが示された。H26年度の研究では、PYPリガンド結合部位周辺のアミノ酸の変異により、4-ヒドロキシ桂皮酸リガンドの吸収波長が長波長化することに着目し、DHCA-TPのPYPラベル化体の更なる長波長化を目的として、PYPの変異体解析を行った。E46Q及びR52A変異体を作成しDHCP-TPとの吸収スペクトルを測定したところ、野生型では、455 nm付近の吸収が463 nm及び465 nmに長波長化していることが明らかとなった。以上のことから、光構造変換分子の創製、可視光照射による構造変換、変異体アプローチによる長波長化に成功した。
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