本研究では、新規細胞セレクション法の開発を目指し、我々が新規に開発したチオクロモン型光分解性化合物を用いて、従来法と比較してより詳細に生命現象を解明できる「第二世代のケージド化合物」の創成を目的としている。これまでケージド化合物に一般的に用いられてきた光分解性保護基とは異なり、我々が開発したチオクロモン骨格を有する光分解性保護基は、光照射によってアンケージングされることで、強い蛍光を発する特長を有する。 昨年度までに、ホタルルシフェリンをモデル化合物として利用することで、チオクロモン型光分解性保護基がケージド化合物へと展開できることを明らかにした。その後は本研究を生体内へ展開すべく、核酸の一つであるチミジンをケージングしたケージドチミジンの合成とそれを組み込んだケージドオリゴ核酸の合成を行い、アンケージングによる生物活性評価を検討した。 ケージドチミジンの合成において、チオクロモン型保護基の導入に通常用いていたエステル結合ではなく、エーテル結合を用いてチミジンへの導入を行うと、合成は達成できたが、アンケージングの際に当初予想していた蛍光種とは異なる構造の蛍光種が得られた。構造を詳細に検討したところ、アンケージングが行われる前に蛍光体の中間体が生成し、さらにそれに光を照射することで元のチミジンが再生していることが明らかとなった。この過程では光照射前には蛍光を発さず、中間体の生成に伴って蛍光が増加し、アンケージングの際に再び蛍光が消光していく挙動となっており、蛍光の強度でアンケージングの進行具合を確認できる系が確立できた。さらに、ケージドチミジンを導入したケージドオリゴ核酸を合成し、それをアンチセンス分子として利用したところ、光照射前ではアンチセンス機能が低下していたのに対し、光を照射することでアンチセンス機能が復元することを見出した。
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