研究課題/領域番号 |
25560406
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
犀川 陽子 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (20348824)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カルシウム移動 / 石灰化阻害 / ダチョウ / 卵殻 |
研究概要 |
鳥類の卵殻は、胚形成時に内側から脱灰が起こり、カルシウムイオンが移動して雛の骨形成に利用される。また、シロチョウガイなどの貝殻粉末はヒトの骨組織の発達を促進するという報告があり、抗骨粗鬆症薬の開発に繋がると期待されている。これらの現象のメカニズムは未知であり、今回、新しいアプローチとして炭酸カルシウムの溶解や移動、吸収に積極的に関与する有機物質の関与を想定し、鍵となる有機物質の探索を行っている。 研究を開始した本年度は、ダチョウの卵殻を用いて、カルシウムイオンと親和性の高い有機分子を探索した。この評価系として、炭酸カルシウム生成環境下における石灰化阻害活性試験法を採用し、有意に石灰化を阻害する主成分としてリン酸を同定した。また、ダチョウ卵殻には、石灰化環境下で形状の異なる炭酸カルシウムの沈殿を生じさせる成分が存在することがわかり、その分子構造の解析を行ったところ、リン酸エステルであることがわかった。この化合物存在下では粒径の小さな無晶系の炭酸カルシウムが生成していることがわかり、卵殻中で炭酸カルシウムの脱灰を容易にしている可能性を見出した。ダチョウ卵殻の上部を割って内容物を取り出した後、酢酸水を入れて卵殻の内側から順次抽出を行って調べたところ、このリン酸エステルは卵殻内側に局在していることがわかった。この結果からも卵殻内側から脱灰が起こり、胚へカルシウムが移動する際に今回得られたリン酸エステルが何らかの寄与をしていると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ダチョウ卵殻を用いて炭酸カルシウム生成に影響を与える有機成分の探索を中心に行い、当初の目標通り卵殻からのカルシウム移動に寄与する化合物の有力な候補となる有機分子を得ることができた。また、これが卵殻内側に局在しているという知見を得たことから、有機分子の分布について調べるという来年度以降の目標の1つに及ぶ進展があったと言える。ダチョウ卵殻の研究に特化して貝殻粉末についての研究はあまり進めていないため、研究全体としては大まかに順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
25年度までにダチョウの卵殻からカルシウムイオンと親和性の高い有機分子としてリン酸およびリン酸エステルを同定したため、26年度は他の鳥類の卵殻に同じ成分が含まれているか、リン酸エステルの有無と含有率を調べて鳥類卵殻成分の一般性を探る。対象としては鶏卵卵殻、エミューの卵殻を用いる。鶏卵から同様の物質が得られることがわかれば、体外培養により直接的に有機物質の寄与を調べることができる。また、石灰化条件下の挙動を調べる評価系と並行して、卵殻脱灰に関わると言われる卵殻由来炭酸脱水酵素を抽出し、酵素活性を評価する試験系を立ち上げることを計画している。一方、シロチョウガイの殻からのカルシウム親和性成分の探索については評価系の立ち上げ段階であり、25年度は予定よりも進展しなかったことから、26年度は他の貝の殻質層有機成分との比較を行ってシロチョウガイ特有の成分を探索すると共に、評価系の改良を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は研究課題の小題のうち片方の課題を集中的に行ったため、購入した器具、試薬、装置が予定よりも少なかった。その分、次年度には新たに始めた他方の研究小題を中心に展開する予定であり、当該研究機関に常備していない器具、試薬、装置を新たに購入する必要があるため、次年度使用額に今年度分を一部移行した。 鳥類卵殻から胚へのカルシウム移動に関与する有機分子の探索については、他の鳥類の卵殻からの抽出、精製や、脱灰に寄与する炭酸脱水素酵素の探索のために新たに溶媒、分離担体、解析のための消耗品、酵素精製、解析のための装置を購入する。また、貝殻粉末からの有機分子の探索については、これまでに確立した評価系の他に細胞系に与える影響を追試する必要によっては新たに培養のための装置や器具を購入する。
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