研究課題/領域番号 |
25560409
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
橋本 貴美子 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (90286641)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 毒きのこ / ニセクロハツ / キシメジ / 横紋筋融解 / Tricholoma equestre |
研究実績の概要 |
毒きのこニセクロハツ(Russula subnigricans)は、致死的な中毒を引き起こす。この毒成分は、2-シクロプロペンカルボン酸という非常に重合し易い化合物であることが判明した。更に、致死的毒性発現の原因は重度の横紋筋融解を誘発し、急性の腎不全を招いてしまうためであることを最近明らかにした。このきのこは1950年代に新種の毒きのことして記載されたものの、50年もの間毒成分の解明ができずにいた。この原因は二つある。一つは毒成分が不安定であるためであり、もう一つは、類似のきのこが数種あり、以前の研究では間違ったきのこを用いていたことである。 ニセクロハツの発生時期、宿主と思われる樹木などの調査を行なう過程で、ニセクロハツに類似した同属のきのこが数種あることがわかった。ニセクロハツの基準標本は京都の高台寺山(国有林)に発生するものが指定されている。東北には、ニセクロハツによく似たRussula sp(未記載種1)が発生し、図鑑の記述を参考にして同定すると、本物と間違えてしまう。この結果、以前の毒成分研究ではこのきのこを試料として使用していた。また、関東地方でも、ニセクロハツに良く似たRussula sp(未記載種2)が発生する。どの種も、発生時期や環境には類似性があり、かなり多量に発生し目立つため、これら3種を見分けるための指標が必要である。そこで、化学成分によって見分けることを検討した。それぞれの粗抽出物を1H NMRにて分析し、重なるシグナルが少ない高磁場領域にニセクロハツ特有の化合物を見いだした。構造解析を行なったところ、Cyclopropylacetyl-(R)-carnitine であることが判明した。 更に、未記載種2(八国山(東京都)にて9月に採集)と、新たな類似種である未記載種3(高台寺山(京都府)にて7月に採集)を国立科学博物館に標本として寄託した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ニセクロハツに最も間違え易い2種の未記載種については、分布や発生時期、宿主と思われる樹木などがおよそ判明し、標本を国立科学博物館に寄託できた。 また、これら2種とニセクロハツとの形態、分布、発生時期などの比較および、ニセクロハツを見分けるためのマーカー化合物の単離に成功した。 しかし、もう一つのテーマとなっているキシメジ属のきのこの分布や特性については、あまり進んでいない。というのも、多くのキシメジ属のきのこが発生する秋~冬にかけて、雨が少なかったため、他のきのこも含めて発生がみられなかったためである。
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今後の研究の推進方策 |
Tricholoma equestreに相当するきのこの発生、分布調査を最優先し、次の段階である化学分析に供することができるようにする。 発生地を複数確保すると共に、できればまず形態観察ができる程の量を入手する。各地において、異なるきのこを同一名で呼んでいる可能性が高いため、なるべく全国各地から標本を入手し、形態観察および遺伝子解析を行なう。 また、有毒であることが判明していながら、毒成分の不明なTricholoma属のきのこも同時に発生することがあるため、これらも含めて調査採集を行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
問題となるきのこが発生する時期に天候不順(極端な雨不足)となり、各地においてきのこ全般の発生が非常に悪く、調査および採集ができなかった。このため、研究期間を延長し、来年度に再調査を行なうことにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
主にキシメジ属のきのこの調査用旅費および、分析器具や薬品、採集品(きのこの採集を依頼する)の購入といった消耗品の購入に充てる。 旅費:各地のきのこの会の情報から、キシメジ属のきのこの発生状況を教えてもらい、調査に赴く際に使用する。 消耗品:各地のきのこの会会員にきのこの採集をお願いし、採集品を購入する。また、ある程度の量が確保できれば形態観察、毒性試験、化学分析などを行なうため、その際の器具、薬品代として使用する。
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