フランスとポーランドでの中毒事故をきっかけとして、キシメジ属のキノコの中には致死的な横紋筋融解を引き起こすものがあることが判明している。原因菌は日本にも分布していることになっているため、原因物質研究の前段階として、キノコを入手可能かどうか調査を行なった。 国外で中毒を引き起こした菌はTricholoma equestreと発表されたが、この菌はキシメジ(T. flavovirens)と同一であるとされる。キシメジは日本に分布しており、食菌シモコシ(T. auratum)とは形態がよく似ているため区別が難しく、同一種とみなす意見もある。また、地方によっては黄色のキノコをキシメジと呼ぶため、どのキノコがキシメジであるか、専門家でもわからないという状態である。そこで、各地のキノコの会の情報を元に、樹種の異なる林や、高度(気温)の異なる林でのキシメジ類似菌の分布、形態的に区別するポイントを見いだせるかどうかを検討した。 その結果、特に混乱を来している種はキシメジ、シモコシ、カラキシメジ(T. aestuans)の3種であることがわかった。各地のキノコの会会員に採集を依頼し、送られてくるキノコを調べて見ると、圧倒的にカラキシメジが多い。北海道から九州の山地で採集されたものであり、針葉樹林あるいは針葉樹の混じった広葉樹林に発生していた。シモコシも針葉樹林(赤松や黒松林)に発生するが、キシメジは針葉樹に依存しておらず、広葉樹のみの林でも発生することがわかった。3種の成熟した子実体を見た目で区別するのは難しいが、周辺の樹種と味、発生時期で区別することができる。生のまま口に入れて苦味を感じるものはカラキシメジであり、茹でると苦味が強くなる。これまで、“キシメジはほろ苦い”とされて来たが、これはカラキシメジをキシメジと勘違いしていることがわかり、混乱している3種を区別して採集するめどが立った。
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