本研究の目的は,有糸分裂阻害剤の一次スクリーニングシステム(バイオセンサー)として,単細胞生物の軸足伸長収縮反応を指標とした新しい生物検定系を試作・開発することにある。原生生物タイヨウチュウは軸足と呼ばれる針状の仮足の中に微小管束を内包し,その伸長・収縮はそのまま細胞骨格としての微小管の重合・脱重合を反映する。抗腫瘍活性を有する新規有糸分裂阻害剤の活性評価は,チューブリンアッセイと呼ばれるin vitroの実験系や細胞株の分裂抑制効果で試験されるが,狂牛病によるチューブリン入手経路の問題,正常細胞への影響評価の困難性等,克服すべき課題が山積している。本申請課題では,新規有糸分裂阻害剤の活性評価のための迅速・簡便・安価で定量性のある新しい生物検定系を試作・開発する。今年度は,①古典的微小管安定剤と新規薬剤との比較,②蛍光プローブ型パクリタキセルによるin vivo解析システムの開発,③異なるタイヨウチュウ類の細胞運動機構の解析,を目的とした。主な結果を示す。 抗腫瘍活性を有するエポチロンによる微小管脱重合阻害効果を検討したところ,パクリタキセルに比べて低濃度で微小管安定剤としての効果があることが分かった。蛍光プローブ結合型パクリタキセルを作用させ蛍光顕微鏡観察を行った。薬剤濃度および処理時間を検討し,細胞が生きた状態で核から伸長している微小管束の蛍光イメージングが可能であることが判明した。軸足長の変化を蛍光イメージングで定量することができる。タイヨウチュウの種の違いにより,それらの軸足収縮・伸長機構が異なることが示唆され,微小管関連タンパク質の違いを反映していることが示唆された。
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