研究課題
挑戦的萌芽研究
バクテリアの細胞内情報伝達の手段に蛋白質のヒスチジン残基(His)とアスパラギン酸残基(Asp)のリン酸化を介した2成分伝達系がある。しかし,これらの残基に結合したリン酸基は化学的に不安定であるため,この系におけるリン酸化研究の手法は限られ,速度論的な解析についての報告はこれまでにほとんどない。本研究では,申請者が独自に開発・改良したリン酸親和性電気泳動法(フォスタグSDS-PAGE)を,この不安定なリン酸化蛋白質を介する2成分情報伝達系の研究に応用し,リン酸基転移反応やそれらの複雑なクロストークの解明のための,さらには,ヒスチジンキナーゼ(HK)阻害剤の開発のための動的定量解析手法として発展させることを目的とした。当該年度においては,分子内で His,Asp,His の順に多段階のリン酸基転移反応を行う大腸菌由来のハイブリッド型HK,EvgSと,ペアのレスポンスレギュレーターである EvgA について,そのリン酸基転移反応の制御機構をフォスタグSDS-PAGEを用いて検証した。以下に成果を記述する。EvgSの自己リン酸化反応,EvgS/EvgA のリン酸基転移反応では,EvgSとEvgAのシフトアップバンドがそれぞれ3種類と1種類検出された。EvgSの3種のバンドとリン酸化部位の関係は,各変異体 H721A,D1009A,H1137Aの自己リン酸化反応におけるバンドパターンを比較することにより明らかにすることができた。野生型EvgSの経時的な自己リン酸化反応において,分離した各バンドの濃度の定量解析を行うと,数分の反応時間でリン酸化型の量(H721,D1009,H1137リン酸化型の合計)の割合は定常状態に達し,約20% であった。一方,変異体 D1009A の自己リン酸化反応では,60分の反応で H721 のリン酸化型が 90% 以上となった。
2: おおむね順調に進展している
フォスタグSDS-PAGEで,EvgSの自己リン酸化反応と,EvgAへのリン酸基転移反応を経時的に定量解析することができた。また,野生型EvgSと変異型D1009Aの自己リン酸化反応の比較から,D1009が存在しないときには,H721の自己リン酸化量が亢進することが分かった。このことは,H721からD1009へのリン酸基転移反応がH721の自己リン酸化量を制御する機構となっている可能性を示している。他のハイブリッド型HKにおいても,同様の結果を得ており,共通の制御機構であることが考えられた。このように,2成分伝達系におけるハイブリッド型HKの複雑なリン酸基転移反応の必要性を考察するうえで,フォスタグSDS-PAGE を用いた定量解析は,重要な示唆を与えた。今後の展開に期待できる。
今後はin vivoリン酸化反応における速度論的検証と生理機能との関連性を追跡する予定である。前年度のin vitro リン酸化反応の研究を継続するとともに, in vivo反応との相関性を検証する。大腸菌の2成分系において新たな反応機構が観察された場合,その生理的意義を遺伝子組換えによる変異蛋白質の機能性や形質転換大腸菌の表現型を比較することによって解明する。具体的には,1)フォスタグSDS-PAGE法による定量分析(in vivo リン酸化反応),2)pHや温度等の環境因子の変化に対する大腸菌の生死,増殖制御,運動性制御等について,3)他の2成分系の遺伝子発現の制御(細胞応答システムのクロストーク)について,等の検討を行う。in vivoリン酸化反応を検出する際には,リン酸親和性電気泳動後のウェスタン解析が必須となり,この解析にはリン酸化非依存的な抗体が不可欠であるので,複数の抗体を委託作成するか,タグ蛋白質を導入した遺伝子改変の大腸菌を作製し,タグ蛋白質をプローブすることで,2成分伝達系の蛋白質をダイナミクスを追跡する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (19件) (うち招待講演 4件) 備考 (2件)
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