研究課題
挑戦的萌芽研究
全ての生命現象は細胞が発現する機能分子の相互作用により支えられているので、現象に関わる分子の種類とその存在量(濃度)を正確に把握し、それらの相互作用と機能発現との相関や因果関係を検証することが必要である。その際、個々の生体反応はナノスケールの空間(機能ドメイン)で起こっているので、機能ドメイン単位の分子の量や密度の情報が求められ、各分子の絶対量に迫れる分子分布の解析系を構築することが出来れば、次世代の生物学へ向けたブレークスルーが生まれることが期待できる。本研究では、申請者がこれまで神経科学研究への応用に携わって来たSDS-digested Freeze-Fracture Replica分子標識法を膜分子の絶対量測定が可能な方法に発展させ、各機能分子の絶対量に基づいた生命現象の理解を可能にすることを目的とした。この為、1.抗体標識法の改善、2.レプリカ上分子の形態観察による分子同定技術の確立、3.代謝標識法の応用の3実験項目を順次行うことを予定した。平成25年度は特に項目1に焦点を当て検討を行った。その結果、プローブ濃度と反応温度の最適化により標識強度が2倍以上になる条件を見出し、その後の標識実験に役立てている。また、前処理に関しては、レプリカのSDS化処理の温度、時間を検討したり、アルカリ処理による高原賦活化の標識への効果を検討したが、非特異的標識が増加するのみで、特異的な標識の増加には至らなかった。項目2に関しては、自然科学研究機構・分子科学研究所の装置開発の原子間力顕微鏡を利用して、レプリカ標本の観察を試み、観察のためのノウハウの蓄積を行った。
3: やや遅れている
交付申請書の研究計画では、1)抗体標識法の改善、2)レプリカ上分子の形態観察による分子同定技術の確立、3)代謝標識法の応用の3実験項目を順次開始し、2年間ですべてを完了することを予定した。既に、前者2項目については開始したが、まだまだ、項目1で改善した標識をもってしても分子発現量の絶対数を測定できるほど検出効率が上昇したとは言いがたい。また、項目2については、形態的に捕らえた分子発現密度と免疫反応により得られた標識密度との直接的な比較が可能にはなっていないので、今後も引き続き検討を行うことが必要である。このような状況から、当初の予定より若干遅れていると判断した。
今年度も引き続き、前年度に開始した検討項目(①抗体標識法の改善、②レプリカ上分子の形態観察による分子同定技術の確立)の完了に向けて実験を進める。また、今年度開始予定の③代謝標識法のレプリカ標識への応用にも着手し、高効率で高分解能の分子局在解析法の確立を目指す。特に検討項目③で高い効率で分子定量ができることが判明すれば、直ちに微細局在が不明な脳機能創出に主要な働きを持つ遺伝子(電位依存性カルシウムチャネルや神経伝達物質受容体等)に代謝標識が可能なタグ配列の付加を遺伝子操作(knock-in)により開始し、生体内分子の局所濃度の解明を加速させたい。項目3の詳細は以下の通り。3)レプリカ上での代謝標識法の確立手法としてはレプリカ表面で生体分子のビオチン化反応を行い、その後、ストレプトアビジン‐金粒子で標識を可視化する(図4 Howarth et al., PNAS, 2005)。このビオチン化には大腸菌のBirA酵素を用いるが、ホルムアルデヒド系の化学固定を行った試料ではこの反応が起きないことを確認した。そこでBirA認識配列を付加した標的遺伝子産物を培養細胞に発現させ機能解析により発現分子の数(密度)を計測する。同様に調整した試料を無固定のまま急速凍結してレプリカを作製し、レプリカ上で酵素反応を行った後、標識を行う。この様にして得られた分子標識密度と機能的な計測から得た密度とを比較することで検出感度を検証し、このアプローチの有効性を評価する。
すべて 2014
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Eur J Neurosci
巻: 39 ページ: 883-892
10.1111/ejn.12474
PNAS
巻: 111 ページ: E194-202
10.1073/pnas.1303317110
巻: 111 ページ: E188-193
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