個体の行動を理解する上で、非侵襲的かつ可逆的な摂動を与えられる実験系は非常に有用である。本研究ではTetシステムを用いて特定の神経細胞を操作できる遺伝子改変マウスを作製し、その神経細胞を破傷風毒素で阻害したところ、ヒトの夜ふかしに相当する行動パターンを得ることができた。そこで、当該マウスを用いて非侵襲的かつ可逆的な摂動を与える実験系を構築しようと試みた。しかしながら、”夜ふかし行動”を検出するための実験条件は、薬物投与の条件検討には適していなかったため、初年度はより適切な変異マウスの開発と、そのマウスを用いてドキシサイクリンの濃度に関する条件検討を簡易的に行った。今年度は、前年度におこなった濃度条件をもとにして、前年度使用した変異マウスを用いて睡眠覚醒時間の測定による濃度条件の検証を試みた。ドキシサイクリンは0 ppmから200 ppmまでの異なる5つの条件に対しておこなった。その結果、睡眠覚醒時間の変化を抑制するためのドキシサイクリン最低濃度と、ドキシサイクリン投与をやめてからその変化を誘導するために必要な期間を明らかにすることができた。さらに、再度ドキシサイクリンを投与し直すことによって、誘導された睡眠覚醒時間の変化を元通りに回復させることにも成功した。このことは、餌の種類を変えるだけで睡眠覚醒時間の変化を誘導し、元に戻すこともできるということを確かめた画期的な成果である。これらの結果から得られた条件をもとに、夜ふかし行動を抑える神経基盤が発達過程でいつ決まるのかを今後解析していく予定である。
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