ヒトは他者の顔をみるときに、視線が左部分にばかりによるバイアスがあることが知られている。この左視野バイアスを生み出す神経機構を明らかにするために、大脳皮質のみ情報が投射されるS-cone刺激と、大脳皮質と皮質下両方の経路に情報が投射される輝度刺激で、左視野バイアスの有無を比較した。成人の被験者15名をリクルートし、モニターに5秒間映しだされた顔の性別(男性か女性か)をボタン押しで回答してもらった。そのときの視線行動を赤外光眼球運動計測装置を用いて、1000hzのサンプリングレートで計測した。顔がS-cone刺激で表示されるブロックと、輝度刺激で表示されるブロックを交互2回ずつ行った。その結果、輝度刺激では、左視野バイアスが強く見られるのに対しS-cone刺激では、その程度は非常に弱かった。 つぎに、一人の話者の正面顔がモニターの中央部に表示される場合と、2人以上の登場人物がモニターの様々な場所に表示されている場合などで、S-cone刺激と輝度刺激では顔の見方に違いがあるかを調べた。具体的には、約3分の長さの動画を2種類用意し、同じ動画をS-cone刺激で表した場合と輝度刺激で表した場合で、顔の見方に違いがあるかを解析した。視線行動は顔を固定しない300hzの近赤光眼球運動計測装置を用いて行った。その結果、動画の場合は表示時間が長いためか、左視野バイアスの効果は弱かった。特に、登場人物が複数の場合は、文脈や位置関係による影響が強く、有意な左視野バイアス効果を見つけることはできなかった。
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