研究課題
脳機能は複雑な神経回路網によって制御される。脳機能を理解するためには、特定神経路の機能を解明する必要がある。低分子量GTP結合タンパク質Rhoファミリーは、様々な神経機能を制御することが明らかにされつつあり、現在、注目を浴びている多機能分子群である。本研究では、新たに開発された高頻度逆行性遺伝子導入ベクターと、アデノ随伴ウイルス (AAV) ベクターを組み合わせた二重遺伝子導入システムを駆使して、特定神経路におけるRhoファミリーシグナル伝達系の役割を解明することを目的とする。平成26年度は、大脳皮質―線条体路を形成するcorticostriatal neuronにおいて特異的にRhoの活性抑制因子であるC3トランスフェラーゼ、Rac1のドミナントネガティブ変異体、Cdc42のドミナントネガティブ変異体をそれぞれ発現誘導したマウス(前年度に作製)の組織解析を行った。その結果、C3トランスフェラーゼを発現させたマウスのcorticostriatal neuronにおいて、顕著な細胞数の減少を認めた。このことから、corticostriatal neuronの生存にはRhoシグナル伝達系の活性が必須であることが明らかになった。本研究は、成熟大脳皮質ニューロン、特にcorticostriatal neuronの生存機構を分子レベルで明らかにした初めての例である。
2: おおむね順調に進展している
これまで不明な点が多かったcorticostriatal neuronの生存にRhoシグナル伝達系が関与していることを初めて明らかにした。
今後は以下のような研究推進方策を予定している。(1)Corticostriatal neuronにおいてRhoの活性を抑制すると細胞数が顕著に減少することを見出した。細胞数減少のタイムコースを解析するとともに、細胞数の減少がアポトーシスに起因するどうかを検討する。(2)Rhoの主要な標的タンパク質の1つであるRho-kinaseのドミナントネガティブ変異体をcorticostriatal neuronに発現させたマウスを解析することによって、Rho/Rho-kinaseシグナル伝達系がcorticostriatal neuronの生存に関与しているかどうかを検討する。(3)Rac1とCdc42のドミナントネガティブ変異体を発現したマウスでは、corticostriatal neuronに顕著な細胞数の減少は認められなかった。しかし、corticostriatal neuronの機能に何らかの影響が出ている可能性が考えられるため、これらに関しては、ワーキングメモリなどを検討することによって、行動生理学的な解析を進める予定である。
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