タンザニア南部高原では自生のタケを家や畑の周りで半栽培し、そのタケノコから樹液を採集して酒をつくっている。この酒を現地語でウランジといい、手軽でおいしい地酒として大衆に親しまれてきた。新鮮なウランジを近郊の町に持っていって現金収入を得ることも多い。また、タケの桿はさまざまな工芸品や建築の材料になり、網目状の地下茎には表土の浸食を抑える効果もある。この研究では、タケがもつ多彩な機能に着目し、1)ウランジの商品化、2)増殖技術の確立、3)環境保全機能の実証をとおして環境保全と生計向上を実現するための糸口をつかもうとした。 1)ウランジの商品化には味の化学成分を把握した上で、もっともおいしい状態を再現・維持しなければならない。採集して間もないウランジは糖度が高く香りもよいがアルコール度は低い。採集後も発酵は継続し、1日も経てばほとんどの糖が発酵してアルコールは強くなるが甘みや芳香は失われる。酒づくりの工程をよく観察してみると、採集者は朝夕2回ウランジを採集し、発酵程度の異なるウランジをブレンドすることで風味とアルコールを兼ね備えた酒を造り出していた。採集後の経過時間が異なる酒をブレンドし、密閉して煮沸滅菌することで現地の味に近い、保存可能なウランジを再現することができた。ただし、死滅酵母に由来する硫黄臭の課題は残った。 2)ウランジ種の繁殖については、植え付け用の桿の齢、季節、水環境、家畜の食害防除などに関するデータを収集した。これらの点に留意すれば、3年でウランジを採集できる竹群を形成できることを実証した。 3)最終年は、竹林の環境保全機能について試験区を設置したが、1年では結果は現れず、長期的にデータと向き合う必要性を感じた。広域調査では、河岸での竹林の土留め効果は各地で観察されたが、急傾斜地で竹林自体を見ることがなく、地滑りの抑制については確証がもてなかった。
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