研究課題/領域番号 |
25570016
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
菅野 優香 小樽商科大学, 言語センター, 准教授 (30623756)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | クィア / LGBT / 映画祭 / 映画研究 / 女性映画 / コミュニティ / アクティヴィズム |
研究概要 |
本年度は、国内外の映画祭に参加し、運営の形態や上映作品の選定、および地域のコミュニティとの連携のあり方を中心に調査を行った。「第15回ソウル国際女性映画祭」は、世界で最も充実した女性映画祭のひとつに数えられるが、女性監督によるクィア映画作品を集めた「クィア・レインボー」企画を毎年組んでいる。本年度は、クィア×フェミニズムをテーマに、商業大作から独立系中編映画まで多彩な作品が上映された。この企画のプログラマーを務めるHong So-in氏に聞き取りを行い、プログラミングに関する貴重な情報を得ることができた。映画祭と同時開催された国際シンポジウム「女性映画の新たな地図:産業・政策・ネットワーク」にも参加、映画祭に関わる知見を広げることができた。国内では、「第4回アジアン・クィア映画祭」に参加し、アジア諸国のLGBT映画製作の現状についての情報を収集した。「第8回青森インターナショナルLGBTフィルムフェスティバル」では、映画祭実行委員長の成田陽子氏から、運営方法やプログラミングについて話を聞く機会を得た。「第17回タイ・ショートフィフルム・ビデオ映画祭」では、ディレクターのチャリダ・ウアバルムンジット氏およびプログラミング責任者のサンチャイ・チョティロセラネ氏への聞き取り調査から、タイ国内のLGBT映画制作の状況についての情報を、また、タイ国立フィルム・アーカイヴでは、国内のクィア映画研究に関する資料を収集した。「第3回愛媛LGBT映画祭」は、地元のNPO団体レインボープライドが主催し、映画祭を通じた啓蒙運動、コミュニティ形成に取り組んでいるという特徴を持つ。ここでも、主催者への聞き取り調査を行い、運営に関する話を聞く機会を得た。本年度は、映画祭への参加と聞き取り調査を通じて映画祭関係者とのネットワークを構築できたことが最大の収穫であったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は国内外の主催者への聞き取り調査、およびプログラミング調査を中心に、映画祭運営の実情を精査することを目的としていたため、そうした研究計画については順調に遂行できたと考えている。主催者(実行委員会)、プログラマー、ボランティア・スタッフといった映画祭関係者の方々が、忙しいなか快く調査に応じてくださった。このような協力を得たことが、研究目的を達成できた要因である。また、関係者からの情報を得るだけではなく、実際に各映画祭へ足を運び、他の観客と時間と空間を共有することで、映画祭のもつ情動的な側面に触れることができたことも有意義であった。26年3月にはシアトルで開催されたSociety for Cinema and Media Studies年次大会で学会発表を行ったが、その際に、"Film and Media Festival Studies Scholarly Interest Group"のミーティングに参加、映画祭研究に携わるメンバーと意見交換を行うことができた。北米、北欧、中南米、西欧における映画祭研究の現状について知見を広げるとともに、映画祭へのさまざまなアプローチに触れる貴重な機会を得た。本年度は、参加を予定しながら、日程の都合上、そうした計画がかなわなかった映画祭がいくつかあった。国内では、とりわけ大都市圏以外の地域で開催されるクィア、LGBT映画祭を重視している本研究を踏まえると、「香川レインボー映画祭」に参加できなかったことが残念である。また、来年以降の課題としては、テーマをより焦点化した上で、収集した資料や情報の整理、分類を行い、本研究課題に関連した論文執筆のための分析に着手することを挙げておく。
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今後の研究の推進方策 |
25年に引き続き、クィア、LGBTをテーマとした映画祭への参加、調査、資料収集を行う。「ソウル国際女性映画祭」に加え、今年は新たに「Women Make Waves Film Festival」(台北)、「Hong Kong Lesbian and Gay Film Festival」(香港)および、「香川レインボー映画祭」への参加を計画している。また、収集した資料および情報に基づき、プログラミングや運営、地域のコミュニティとの連携などについての分析に着手し、論文としてその成果を発信したいと考えている。今後特に注目したいのが、韓国および台湾などのように、クィアおよびレズビアン関連作品が「女性映画」の枠組みでプログラミングされている事例である。従って、ソウル、台北では、女性運動/フェミニズム運動とクィア、LGBTムーブメントとの関係について詳細な調査を行い、映画文化と社会運動の交差に「映画祭」を位置づけ、考察を行う。これまでの研究においては、主催者やプログラマー、ボランティア・スタッフを中心に聞き取り調査を実施してきたが、今後は、観客層や財政面にも焦点を当て、映画祭運営に関するより包括的な情報を収集する予定である。上述したように、現在、映画祭関係者との充実したネットワークを構築しつつあるが、それに加えて、国内外の映画祭研究者とのネットワーク拡充にもつとめ、映画祭研究に関する方法論や理論についてより知見を広げていきたい。そのためには、Society for Cinema and Media Studies内のScholarly Interest Group、ならびに Film Festival Research Groupのメンバーと活発な意見交換を行い、映画祭の学術的意義についての議論を深めていく必要があるだろう。
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