パブリックアートに関する議論を「野外彫刻」論という従来の狭い枠組みから解放し、「公共性」を軸としてパブリックアートを位置付け直す試みのうち、本研究は、伝統的モニュメントに対する異議申し立てとしての「対抗的モニュメント」にフォーカスして検討を加えることを目的とするものである。補助事業期間の延長が認められたことを受け、最終年度は、刊行予定だった書籍の最終仕上げを行い、前年度に積み残したまとめ作業に取り組んだ。 研究機関全体の課題のうち、対抗的モニュメントの理論的・概念的レベルでの整理と検討、具体的なプロジェクトの事例分析、および、対抗的モニュメントの可能性と限界については、一定程度検討できた。そのうち、日本におけるパブリックアートの歴史と現在に注目して、モニュメントおよびそれに対抗する企てを調査・検討した成果は、『パブリックアートの現在―屋外彫刻からアートプロジェクトまで―』と題する書籍として2017年春に刊行された。 日本の場合、大戦後に従来の偉人像に取って代わったのは「環境美化」や「文化」に彩られた芸術的彫刻であったので、戦後はやい時期から、政治性を強く帯びたモニュメントとは異なる潮流があったことになる。それが空間的にも時間的にも変貌を遂げて、近年の芸術祭やアートプロジェクト等に至るプロセスは、固定的でモニュメンタルな芸術のあり方に対するオルタナティブな流れの歴史として、社会的関係の変容とも関連付けて捉えなおすことができる。先行研究では、ドイツの事例など、政治的な対抗軸を前提にしたものがモデルとなっている点からすれば、「対抗的モニュメント」を拡張的に捉える可能性を示したことにもなる。書籍では紙幅の都合で日本の事例のみ取り上げることとなったが、海外事例(とくに狭義の対抗的モニュメントとみなされる事例)に関する検討の結果は、別途、学会誌等に投稿する予定である。
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