研究課題/領域番号 |
25580004
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
伊佐敷 隆弘 日本大学, 経済学部, 教授 (50274767)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 分析哲学 / 存在の謎 / 検証原理 / 論理実証主義 / 全体論 / クワイン / クリプキ / 形而上学 |
研究実績の概要 |
「存在の謎」(なぜ無ではなく何かが存在するのか)は1996年にアリストテレス協会とマインド協会が共同開催した学会におけるシンポジウムテーマの一つであった。報告者は,「確率説」を唱えるヴァン・インワーゲン(アメリカ)と,「4カテゴリー論」および「必然説」を唱えるロウ(イギリス)という現代分析哲学を代表する英米の2人の哲学者であった.このように「存在の謎」は現代の分析哲学において正当な問いとして扱われている。さらに,パーフィットは「セレクター論」(セレクターとは「可能性が現実化するための条件」)によって,「存在の謎」の探究の構造を明らかにしている。 では,いかにして,存在論は復権したのか。 論理実証主義者による存在論批判の根拠は検証原理であったが,検証手続きには実は全体論への萌芽が含まれている。なぜなら,観察命題と他の前提から被検証命題が含意されることがその手続きの中心であるが,これらの前提の検証手続きにはさらに他の前提が必要になるからである。そして,全体論は(提唱者クワインのその後の自然主義への傾斜とは裏腹に)存在論の復権に役立った。なぜなら,存在論に属する命題も我々の知識のネットワークの中にしかるべき位置を持つなら,単独で検証できなくても意味を持ちうることが全体論から帰結するからである。 さらに,クリプキの「必然的だがアポステリオリで総合的な真理」(たとえば,「フォスフォラスとヘスペラスは同一の天体である」)と「偶然的だがアプリオリで分析的な真理」(たとえば,「1メートルは時点tにおけるメートル原器の長さである」)に関する議論が存在論の復権に果たした役割は大きい。なぜなら,この議論によって,形而上学的概念(必然/偶然/可能)が認識論的概念(アプリオリ/アポステリオリ)や意味論的概念(分析的/総合的)から自立することができたからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現代の分析哲学における存在論の復権について以下のことがらを明らかにできたから。 (1)現代の分析哲学における存在論の復権の具体的な姿(ヴァン・インワーゲン,ロウ,パーフィットたちの議論)。 (2)検証原理の適用の際に含まれていた全体論への萌芽が,その後,クワインの全体論の提唱へとつながり,存在論的命題に対する検証原理に基づく批判を無効化した。 (3)クリプキの「必然的だがアポステリオリで総合的な真理」と「偶然的だがアプリオリで分析的な真理」に関する議論が,存在論を認識論や意味論から自立させた。
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今後の研究の推進方策 |
現代の分析哲学における存在論の復権について,細部について調査を進めていく。具体的には,「日常言語学派ライルの形而上学批判→ストローソンの記述的形而上学→現代のカテゴリー論」という流れの細部が具体的にどのようなものであるのかについて,さらに調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品の価格が見込み額より低額であったため,約2800円の端数が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越分は次年度の物品購入で使用する。
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