最終年度である今年度は,(1)現代の分析形而上学者自身の持つ形而上学観を明らかにし,さらに,(2)「形而上学的主張の正当化」というメタ形而上学的問いについて考察した。 (1)現代の代表的分析形而上学者の一人であるジョナサン・ロウは次のような形而上学観を持っている。 実在の根本構造を探究対象とするアリストテレス的形而上学と思考の根本構造を探究対象とするカント的形而上学は区別されるが,思考も実在の一部であるから,後者は自己矛盾的である。ストローソンやダメットのような言語分析に依拠する形而上学はカント的形而上学の現代版である。ただし,「同一性」「因果」などの概念には実在の根本構造が具現化しているから,これらの概念の理解を通して実在の根本構造について知ることができる(概念分析の,手段としての有用性)。絶対的確実性を求めることがカント的形而上学の動機だが,形而上学は可謬的である。形而上学は,物理的・認識論的・論理的可能性から区別された形而上学的可能性に関わり,論理的・概念的必然性から区別された形而上学的必然性に関わる。また,クワインのような科学主義(自然主義)は,それ自体が一つの形而上学的主張であるから,むしろ形而上学の不可避性がそこに示されている。ロウはこのように考えている。 (2)「形而上学的主張はいかにして正当化されうるか」というメタ形而上学的問いについて考察し,次の結論を得た。形而上学的主張は,なんらかの哲学的直観によって正当化されるのではなく,他の分野の学問の場合と同様に,「より良い理論を選択するための基準」を満たしているか否かによって正当化される。即ち,論理的整合性・説明の包括性・未定義概念の少なさ・論証の単純性・既存の知識の保存・他分野の知識との整合性・常識との整合性などの複数の基準によって正当化される。ロウの言う「形而上学の可謬性」もこのことに帰着すると考えられる。
|