研究課題/領域番号 |
25580018
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
三浦 敦 埼玉大学, 教養学部, 教授 (60261872)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 伝統的土地制度(セネガル) / 土地改革(セネガル) / プルードン / アソシエーション |
研究概要 |
平成25年度は、平成24年度に発表した所有権についての論文(「現代市場社会における非私的所有の効率性と社会的意義」『社会人類学年報』第38号所収)を基礎に、さらに理論的考察を深めた。当初の計画においては、平成25年度の研究は、プルードンの生まれたフランシュ=コンテ社会における土地制度について検討する予定であったが、平成25年度後半にセネガルに長期滞在する機会を得たので、予定を変更して、プルードン理論の非ヨーロッパ世界での土地制度と比較しながら検討することを、今年度の研究として主として行うこととした。そしてまず、セネガルにおける伝統的土地制度と1960年の独立以降に行われてきた種々の土地改革について、その政治的および社会的意味について、プルードン理論を念頭に置きながら考察を行った(その成果は現在、学術雑誌に投稿中であるが、紙幅の関係からプルードンへの直接言及はできなかった)。 ここで明らかになった点は、セネガルの伝統的な土地所有制度の根底には、プルードンが正義に基づくと考えていた土地制度と同じ労働所有の論理があるという点である。確かに、プルードンの生きていた19世紀フランスの農民的土地制度とセネガルの伝統的土地制度(今日でも見られるが、植民地化以前からあったもの)では、顕著な違いも見られるが、しかし根底において土地へのアクセスや生産物の所有を正当化する論理には、同じものが見られる。そして同様のことは、フィリピンなど東南アジアの伝統的土地制度にも見られる。この点で、一方でロック的な所有の論理が世界各地で広く見られる一方で、しかしロック的論理は社会的側面を考慮していないがために、現状の説明には不十分であることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、フランスのフランシュ=コンテ農村とプルードン理論の関係についての検討を中心に据える予定であったが、次の3つの理由からその予定は大きく変える必要が生まれた。第一は、平成25年度後半から4ヶ月にわたりセネガルに滞在して農村調査を行うことになったために、当初の予定に従ってフランスで文献調査を行うことが難しくなったことである。第二は、平成24年度に発表した論文をもとに考察を発展させていく中で、プルードン理論をより広い理論的実証的視点から考察することが必要であるという認識に至り、そのため、フランス農村だけではなく他の農村での状況との比較も重要であり、このような幅広い比較を通じて初めて、プルードン理論におけるフランシュ=コンテ農村社会の意義を改めて理解することが可能になると考えるようになったことである。第三は、同じく平成24年度に発表した論文をもとに考察を発展させていく中で、理論的な側面(特にロック理論との関わり)について整理をしておく必要があることが明らかになったことである。 このような理由から平成25年度は、フランシュ=コンテ農村についての検討を行うという当初の予定を変更して、セネガルにおける土地制度について検討しながら、プルードン理論の理論的側面の検討を行ってきた。そしてその準備として、セネガルの社会主義的政策についての論考をまとめ(埼玉大学紀要に掲載)、さらに研究の成果としてセネガルの土地改革について論考をまとめた(学術雑誌に投稿中)。 したがって、当初の研究計画の達成度という点では不十分であるが、しかし新たな必要性に従った研究という点では、充分な進展が見られたと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、次の3つの研究を同時に進める必要がある。 第一は、今まで後回しになってきた、フランシュ=コンテ社会とプルードン理論の関係の検討である。この点で、すでに研究を行ってきたフィリピン農村やセネガル農村との比較は、プルードン理論のより深い理解に貢献すると思われる。 第二は、セネガルの土地制度とプルードン理論の関係の検討である。特にセネガルがかつて「アフリカ的社会主義」を唱え、その要の一つとして土地制度をとらえていたことは興味深い。歴史的には、アフリカ的社会主義の実験は失敗に終わったが、その失敗の理由をプルードン理論と照らし合わせながら考えてみることは、プルードン理論の評価に大きく貢献するものである。また、この観点から、現在進行中のセネガルの土地改革や農村改革の可能性について検討することも可能となる。 第三は、より理論的な検討である。プルードン理論における労働所有観は、ロックの労働所有観と似ているが、しかしロックが市場経済化にともなう所有の変質に言及したのに対して、プルードンは労働所有観にこだわり資本主義における搾取を告発した。この点で、ロックはリバタリアニズムと親和性がある一方、プルードンはむしろその社会的側面を考慮していたと考えられる。このことから、プルードン理論は種々の社会組織についても、(新制度は経済学とは異なる)独自の視点から考察することを可能にし、さらには「社会主義」と呼ばれてきた種々の制度についての、いままでのイデオロギー的あるいは効率主義的評価とは異なる、社会システムとしての再評価を可能にする。またこの点において、エティエンヌ・ル・ロワの理論的研究に注目している。この、所有と組織の関連の検討がこれからの研究課題の中心となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、後半からセネガルに長期滞在することになったため、フランスに文献調査は年度末の3月末になって初めて実現することになった。そのため、フランス滞在を想定した本研究の予算は、3月末まで使うことができないままとなってしまった。 平成26年度の前半は、引き続きフランスに滞在しているので、次年度止揚学をそのままフランスの滞在費および資料購入費に充てる予定である。
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