研究課題
プルードンの思想は従来、思想史研究の中で議論され、多くの場合は否定的な評価がなされてきたが、プルードンがその理論を育んだ、故郷のフランシュ=コンテ農村社会を参照することで、その意義を明らかするという試みはなされてこなかった。しかし、、中世以来行われてきた共同放牧およびアフアージュ権、さらには18世紀から活発な活動を始めたチーズ生産組合は、いずれもプルードン的な労働所有論に基礎を置く農民たちの正義に基づいており、プルードン理論とフランシュ=コンテ農村の社会慣行は連続性をもつものであった。たしかにフランシュ=コンテ農民は決して社会主義思想を重視していたわけではなく、むしろ政治的には保守的であったが、しかし他のフランスの地方とは異なり、共同放牧やチーズ生産組合といった「共同体的慣行」によって農村経済の市場経済化に適応したという特徴を持つ。そしてその「共同体的慣行」を支えたのが、上記の労働所有論的な所有の理解であった。このような所有の理解は、今日でもフランシュ=コンテ農民の生活の根底に見られる。その意味で、プルードンが構想した社会システムは、けっして夢物語だったわけではなく、むしろ今日の市場社会においても一定の有効性を持っていると考えることができる。とはいえ、問題も明らかである。それは、アソシエーションというシステムはけっして万能の解決策ではなく、一定の条件下では階層的な官僚的システムの方が効率的となることもあるということと、プルードンの所有論は所有主体と所有対象が一対一で結びつけられることが前提となっているが、実際には複数の異なる所有権が重合しているというのが実際に各地に見られる所有システムの実態である。このように、プルードン理論はフランシュ=コンテ社会に根ざした理論であり、19世紀的な制約はあるものの、今日でも一定の有効性を持つ理論であるということができる。
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埼玉大学紀要・教養学部
巻: 51-2 ページ: 333-343
巻: 51-2 ページ: 345-360
アジア経済
巻: 57-1 ページ: 34-62