これまでの研究成果を整理し、論文を執筆。日本文化政策学会の学会誌(『文化政策研究』第10号)に投稿し、受理された。タイトルと要旨は以下の通り。 *** 「“文化力”とは何か?―東日本大震災後の“音楽の力”に関する学際研究が示唆すること」 東日本大震災からの復興は,文化の潜在力を見直す契機となった.「音楽の力」や「アートの力」という言葉とともに様々なアプローチが試みられ,文化庁も「文化力」をキーワードにした報告や提言を発表した.しかし,「文化力」が何を指すのか,文化がどのように復興に寄与するのかという点は依然曖昧なままである. 本論文は,震災という危機的状況において,人々がどのように音楽のもつ力を引き出していったのかを明らかにし,「文化力」とは何かを改めて問うことを目的とする.本論では,まず研究の前提となる音楽の捉え方を確認し,研究方法を詳述した上で,震災後の音楽状況を概観し,「音楽の力」をめぐる二つの論点を詳しく検討する.社会学的なアプローチに加え,認知科学や精神医学的知見を取り入れた学際的な方法を用いることで,音楽の「力」が発動するメカニズムの一端を明らかすることを試みる. 考察の結果,「文化力」とは,文化と芸術表現の循環を促す「人」の力と捉え直された.また,文化や芸術が「力」をもてるかどうかは,芸術の意味が「コンテンツ×コンテクスト×メモリーボックス」という3つの変数によって決まることを理解しながら,芸術実践を社会にデザインすることができるかどうかにかかっていることも示された.
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