研究課題/領域番号 |
25580025
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
山下 薫子(坂田薫子) 東京藝術大学, 音楽学部, 教授 (90283324)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 数字譜 / 数字唱 / 事例収集 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本における数字譜の史的展開を明らかにした上で、その意義と課題について、音楽知覚・認知の観点から再評価することにある。 第2年次の平成26年度には、主として(1)初年度に行った史資料の分析と考察、(2)数字を用いた相対音感指導についての資料収集、の2点を行った。 (1)の結果、明らかになったのは、次の2点である。①明治前期には、ヒフミ唱法で読まれることを前提とし、五線譜と併記されて補助的役割を担っていた数字譜が、明治中期以降には、ドレミ階名唱法と結びつくなどして、五線譜と切り離された形で広まっていったこと。②明治40年、小学校令施行規則の改正により楽譜に関する規制がなくなると、五線譜を用いた指導を行おうとする機運が高まったが、その主張の根拠となったのは、学習者である児童生徒の知覚・認知の問題というよりも、むしろ数字譜の楽譜としての不完全性を危惧する考え方にあったこと。 (2)については、ジャック=ダルクローズが提唱した方法によるソルフェージュの実践事例を分析した。これは、ドレミを音名として用いて、ドの絶対的な音高感覚を身につけさせるとともに、数字唱により、相対的な音程感覚をも感得させようとするものである。この方法を応用して、数字譜と数字唱の指導を試行することにより、移動ド唱法と固定ド唱法との二項対立的な議論に、新たな視点を付与することができると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、今年度は研究成果を発表し、精査を受ける予定にしていたが、考察を深め、結論をより慎重に導き出す必要が生じたため、成果発表を見合わせることにした。その理由は、初年度に収集した史資料を分析している中で、数字譜の問題が、読譜指導の問題に留まらず、洋楽器による日本伝統音楽演奏の試みなど、洋楽受容の過程における様々な問題とかかわり合っていることが分かったからである。この新たな視点を得たことは、今後の研究を進める上で大きな収穫であったと言える。 その他については、ほぼ予定通りのペースで進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、第2年次に検討した数字唱の方法を応用し、①学校音楽教育、②私的な音楽教室、③専門的なレッスン、で試験的な指導を行い、読譜と音感指導の過程における知覚・認知のメカニズムの解明を目指す。 これと並行して、これまでに明らかとなった数字譜の史的展開、とりわけ日本の洋楽受容と音楽教育に果たした数字譜の役割を、論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額、約10,000円が生じたのは、年度末に予定していた聞き取り調査の時期が新年度にずれ込み、謝金の執行が完了しなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の前半に、専門的知識の提供に対する謝金として使用する計画である。
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