研究課題/領域番号 |
25580031
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
並木 秀俊 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 助教 (00535461)
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研究分担者 |
迫田 岳臣 倉敷芸術科学大学, 芸術学部, 技術指導員 (90645186)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 文化財保存 / 国際文化交流 / 美術史 / 材料技法研究 |
研究概要 |
はじめに、本研究目的の一つである截金技法の起源を探求すべく、ゴールドサンドイッチガラス碗と酷似する、イタリア・ギリシャなどの地中海沿岸で多く発掘されたメガリアンボウル(megarian bowl)について資料を集め調査を行った。その結果、このメガリアンボウルは銀器、陶器、ガラスタイプのものに分類でき、これまで収集してきたゴールドサンドイッチガラス碗とメガリアンボウルの画像を比較してみると、ゴールドサンドイッチガラス碗は主に銀器の製法に近いということが解ってきた。この事は截金起源の研究において重要な発見であった。 また、ゴールドサンドイッチガラス碗について資料収集した際に、ロシアのプーキシン美術館が所蔵する金箔ガラス作品の中の、エッチング技法と考えられていた金装飾部分から截金技法も見出すことができ、二つの技法の折衷の要素があったことを確認できた。このことから、この作品は截金技法からの転換期となる作例であったと予測でき、新たな見解をもたらす研究成果が期待できる。 目的の一つである海外での截金技法の再生と公開においては、これまで行なってきた大英博物館所蔵の作品の研究を中心に発表準備を進めており、既に基礎研究で作成した大英博物館所蔵の再現模造作品は「古代ガラス~色彩の饗宴~」展(滋賀県、MIHO MUSEUM・岡山県、岡山市立オリエント美術館に巡回)にて展示され、同館の学芸員から高い評価を得た。また、この作品は原本を所蔵する大英博物館への寄贈を予定(受け入れ内定)しており、海外での技法再生に向けた第一歩を経ることができたと思われる。尚、ゴールドサンドイッチガラス碗や断片等はまだ世界中に点在しており、言語を越えて視覚で見せる説明が必要であるとの見解に至った。この作品に合わせて3Dを用いた動画を作成し、完成した際にはこの動画も大英博物館へ渡す予定であり、情報共有の第一歩になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の研究業績で述べたように、本研究の基礎となる資料収集で、メガリアンボウルについての概要を把握できたと考えられ、次の研究の指標となる見解が見つけられた。 また、基礎資料の作成では世界中に散乱しているゴールドサンドイッチガラス碗と断片の情報について海外資料の翻訳が概ね完了しており、現在その編集を進めている状況である。それに加え、西アジアから截金のこれまでに例のない新たな作品が見受けられたという研究協力者からの情報が入り、今後研究を進めていくことで新知見となる研究成果が期待できると考える。 また、基礎研究において行なってきた成果が「古代ガラス~色彩の饗宴~」展(滋賀県、MIHO MUSEUM・岡山県、岡山市立オリエント美術館に巡回)の図録に研究成果が掲載され、英語の翻訳も同時に行われたことで広く知られる形となり、目的である研究資料の作成および公開において大きな役割を果たしたと言える。そして、国内の錯乱する情報においても一石を投じることができたと考える。 ただ、諸事情により(この理由ついては12.今後の研究の推進方策等で述べる)再現模造研究が進めていられていなく遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
研究業績で述べたように銀器タイプのメガリアンボウルが研究対象作品であるゴールドサンドイッチガラス碗の原形とも言うべきものであることが見えてきたので、今後はこの銀器タイプを中心に文様、製法を分担者・研究協力者と共に調べていく予定である。 そして、この研究成果を基にメガリアンボウルとゴールドサンドイッチガラス碗との鋳造原形を比較し、分担者と共に再現模造を行いながら進めていく。 平成25年度で調査を行えなかった、ロシア・エルミタージュ美術館所蔵の作品と新たに確認できたプーキシン美術館所蔵の作品については、調査を行うための手順を進めていく。この調査では分担者、研究協力者の同行を予定している。 3D動画の作成においては、ガラス碗が出来上がるまでの工程の概要を動画で作成するため、各ガラス碗の展開図および3Dデータの作成を引き続き行うなど、動画に使用する素材作りを本年度中に進めていく。 また、海外で失われた技法の復活に向け、スイスでの国際ガラス史学会(AIHV)等での発表を行うための準備を進めていく。26年6月に具体的な日程等の交付予定。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度に予定していた海外での調査が難航している状況である。というのも、当初予定していたアメリカでの調査は優先度から考えロシアを先行したが、その調査に向けて所蔵先との連絡および調査を依頼したものの、相手先との連絡が遅延してしまったのと、ウクライナで起きた世界情勢の動向を考慮した結果、当初の予定から大幅に遅れた次年度に移行することとした。この調査を踏まえた上で、分担者とともに行う予定であった再現模造の費用も、同様に26年度で使用する予算への移行を行うこととした。 当初は26年度に行う予定であった3D動画作成を既に始めていることと、イタリア・レッジョカラブリア美術館所蔵作品、スイス・ジュネーブ国立歴史博物館所蔵作品の調査を既に決定していることを考慮すると、相殺して進捗状況は概ね良好であると言える。また、調査に再現模造を一緒に行う分担者も同行してもらうことで、同時に再現模造の作業も進められる形になり、26年度の計画に反映していきたい。
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