本年度は、昨年度実施した現地調査に基づき、研究課題に関する探求をより詳細に遂行し得るように具体的な調査計画を立て、8月下旬から9月中旬に掛けてインドにおいて現地調査を行った。調査地や施設については、あらかじめ写真撮影を中心とした許可申請を行い、滞りなく調査を実施出来るように準備を行った。但し、担当者が急に別の任務を命じられ、当方の調査に対応し得ない場合が、少数ながら生じたため、年度末近くに短期間追加調査を実施した。 本年度の現地調査は、前期密教の成立と展開が具体的に美術に現れている5世紀以降6世紀後半までの石窟寺院、および中期密教の成立と展開が確かめられる6世紀後半から8世紀前半までの石窟寺院、さらには同様の時期に制作された美術作品を出土している、東部インドあるいは中部インドを中心とした仏蹟において行った。また、かかる時期に制作された美術作品を所蔵する博物館・美術館においても調査を実施した。 追加調査を含む本年度の現地調査の結果、「胎蔵曼荼羅」ひいては『大日経』は、デカン高原北西部の仏教石窟において成立した可能性が高いという、昨年度の調査による予測がさらに確実なものとなった。取り分け「胎蔵曼荼羅」が多数の神格を含み、本来マンダラが備えるべき水平方向の方位だけでなく、垂直方向の上下関係も有している点は、仏教石窟の構造と関係している。ただ我国まで伝播した「胎蔵曼荼羅」に関しては、成立地から比較的早くに受容したオリッサ(ウディシャ)地方において、幾らかの展開を経て中国に伝えられ、そこで独自の整理がされたと見るべきである。 なお当初、本年度中に学会発表を予定していたが、年度末に追加調査が必要となったため、次年度に研究成果の一部について詳細に学会発表を行うこととした。成果の全体に関しては、「胎蔵曼荼羅」成立地から我国に至る、図像学的な詳細な発展の状況は、研究成果報告書で明らかにする。
|