研究課題/領域番号 |
25580039
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
坂口 英伸 東京藝術大学, 美術学部, 講師 (00646440)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 関東大震災 / 関東震災殃死者名簿 / 永田秀次郎 / 一万年保存 / 関東震災霊牌堂 / 高野山 / 慰霊 / タイル |
研究概要 |
平成25年度は、『関東震災殃死者名簿』(以下、単に「名簿」と表記)の研究を中心に据えた。その理由は、名簿の制作の一部に、研究代表者が勤務する東京芸術大学美術学部の前身である東京美術学校が関与したからである。また、名簿に記載された殃死者は約5万4,700人とされ、本名簿は様々な意味において貴重な資料となると考え、本名簿を平成25年度の研究の中心とした。 現在、名簿を所蔵・管理するのは、高野山真言宗総本山金剛峯寺(和歌山県)である。名簿の実物は、高野山奥之院に所在する関東震災霊牌堂にて保存されている。そのため、高野山に赴いての現地調査を複数回行った。名簿の素材はタイルと和紙の二種類である。両者の内容はほぼ同一だと推測されるが、平成25年度はタイル製名簿に絞って調査を行った。タイルは霊牌堂の地下室にまとめて置かれていた。名簿として用いられたタイルは推計400枚とされるが、調査時における破損を回避するため、約30枚をサンプルとして選んだ。 保存場所である霊牌堂から金剛峯寺までタイルを運び出し、タイルを洗浄、実測と写真撮影を行った。調査の結果、タイルに記載された内容は、残された記録や資料の記述とほぼ同じで、文書資料の記述の正確さが裏付けられた。これら現地調査に加え、国立国会図書館や文書館等で関連資料の収集を行うとともに、学内所蔵の関連資料も調査した。 また、調査の結果を金剛峯寺にて共同記者発表という形で公表した。公表の内容はテレビではNHKニュースで報道され、新聞では『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『産経新聞』『中外日報』などの各紙に掲載された。論文は『東京芸術大学美術学部紀要」へ投稿し、口頭発表は第25回文化資源学研究会にて実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
関東大震災の発生より90年以上を経て、関東大震災に関する記憶が薄れつつあり、記憶の継承も危ういとする指摘がある。また、2011(平成23)年の東日本大震災の発生により、震災への関心が高まりつつある。こうした状況下において、研究代表者が行ったこの度の調査は、一石を投じるものであったといえる。本研究の成果がテレビや新聞などで報道された事実は、その証左ともいえるだろう。 研究代表者が調査した『関東震災殃死者名簿』は、今まで存在こそ知られていたものの、名簿の奉納より80年以上実物の調査が行われたことはなかった。名簿の存在自体を疑問視する関係者がいた中で、名簿の存在を再確認し、かつ現物の調査に基づき実証的に行った本研究の意味は大きいといえよう。 また、研究成果の一部がテレビや新聞などにより報道されたことを踏まえ、達成度を「当初の計画以上に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、平成25年度に引き続き、『関東震災殃死者名簿』の追加調査を中心とする。というのも、昨年度の調査では、推計400枚と思われるタイルのうち、調査したのは10%に満たないもので、タイル製名簿の全体像の把握には、残されたタイルを調査する必要があると考えるからである。高野山での実地調査を今後も継続して行う予定である。 その一方で、関連施設に残された記録資料の収集も必要である。名簿を高野山の霊牌堂に奉納して一万年保存するという永田秀次郎の計画は、概要はほぼ把握できたものの、氏名の調査方法や関係者への制作の依頼の詳細など、いまだ不明な点が多い。不明点の解明を目差し、記録資料の収集を行う。特に海外の文書館に関連資料が所在することを確認したので、海外での資料の収集も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
全額を使うように努力したが、消費税等の端数の金額誤差により予定の金額よりも339円が余った。 余剰の339円は次年度に繰り越して使用したいと考える。
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