本年度は、国内での研究・実践活動と、海外での調査研究を平行して行った。国内での活動は、主に研究代表者が推進した。前年度に引き続き「コミュニティと民俗芸能研究会」を組織し、国の重要無形民俗文化財に指定されている、ある村の民俗芸能の継承をテーマとして、大阪市内で継続的な活動を行った。2015年8月に村を訪問した際には、都市部を拠点とした我々の活動が、村の集落の人々にも認知されていることが確認できた。2015年9月に、こうした「研究会」の3年間の活動を経た現時点での知見について、日本心理学会において発表した。また、村の民俗芸能に関する映像作品の制作を映像の専門家に依頼し、2016年3月に大阪市内で上映会を行った。一連の活動は、本研究でいうところの「文化的共有資源」としての民俗芸能を媒介として、村のコミュニティ(集落)と都市部のコミュニティ(村に関心を持つ人の集まり)が協働する実践だと位置づけることができる。 海外の事例に関する調査研究については、主に研究分担者が推進した。具体的には、タイを研究対象地とし、コミュニティアートを介した社会的弱者の支援を検討するため、欧米(イギリス・オーストラリア)の先例を参照しながら、当該研究分野の質的貢献を視野に入れた検討を行うべく、首都バンコクにおいて社会的不利地域を中心としたフィールド・ワークを4回(それぞれ2週間程度)実施した。その結果、タイの諸都市では、中産階級を前提として形成されてきた欧米のコミュニティアート理論を、そのままコミュニティ再生の現場に適用しようする試みが後を立たず、継続性のない実践事例が少なくないことが分かった。これらの研究成果について「社会的包摂を視野に入れたアーツマネジメントによるコミュニティ再構築」という観点からまとめ、国際会議においてその概要を発表した。
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