研究課題/領域番号 |
25580044
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
知足 美加子 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 准教授 (40284583)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 3Dデータ / 英彦山 / 修験道 / 磨崖仏 / 月輪梵字 / 芸術 / 復元 / 文化財 |
研究概要 |
25年度は、3Dデータ化によって、福岡県英彦山の今熊野窟嘉禎三年銘磨崖石仏(1237年)の調査分析を行った。今熊野窟には1躰の菩薩系立像の陽刻と銘文、3つの月輪大梵字が刻まれている。まず、ポータブルスキャナによって計測したデータから、磨崖石仏横の銘文の解読を試み、判読可能文字を3文字増やした。また崩落した岩石群の3Dデータを、縮小して立体プリンターで出力し、破損前の形状の復元を行った。その結果、磨画面に残された勢至菩薩像、覆屋内の観音菩薩像を両脇侍とする阿弥陀如来座像が、崩落した岩石の表面に全高約198cm、像高約136cmのスケールで彫刻されていたという推測に辿り着いた。阿弥陀三尊像は岩壁の曲がり角にあたる凸面を利用して、主尊が前に競り出るように造形されていた。放射線状に広がるように三尊が配置されており、彫刻の占有空間を広げるための造形的な工夫が行われていることが確認された。 このような芸術的観点からの工夫は、梵調の中心部に線刻を施す等の月輪大梵字の彫刻方法にもみられた。月輪大梵字について、空中撮影による撮影と画像処理によって3Dデータ化を行い、月輪面の直径の計測を行った。その結果、中央の胎蔵界大日如来は直径約269cm(約9尺)、向かって左の釈迦如来は直径約228cm(約7尺7寸)、向かって右の阿弥陀如来は直径約200 cm(約6尺7寸)となった。胎蔵界大日如来の梵字が最も大きく、次いで釈迦如来と続き、阿弥陀如来は最も小さいことがわかった。スケールの違いの根拠については、重要度の違いを表現しているか、もしくは遙拝する位置を配慮した可能性がある。さらに、石彫の専門家に作業を再現してもらうことで、月輪大梵字の制作方法や制作期間についての考察を深めた。銘文が存在する岩壁下部の窟に懸造(かけづくり)の建築物を造り、最奥に千手観音像を奉ったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英彦山(標高1199m)は日本三大修験山の一つであり、調査地も厳しい環境の中にある。3次元計測機器を運び入れることに困難が予想されたが、研究連携者や短期雇用者の協力もあり、無事計測を行うことができた。踏査が難しい磨崖面上部の形状については、空中撮影用ラジコンヘリコプターを活用し、調査を行った。 ポータブル三次元スキャナ(EXASCAN)によって高解像度のデータが得られ、また立体プリンター(ZPrinter)による立体出力物の精度も高く、阿弥陀三尊像の復元が予想以上に捗った。復元内容については、日本山岳修験道学会の第34回学術大会で発表し、専門家の知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
3Dデータ化による磨崖仏の計測は、現在の状態を留める保存用資料に留まらず、制作時の状況を推測するための重要な手がかりを与えてくれるものである。廃仏毀釈や風化によって破壊がすすむ修験道美術(特に磨崖仏)を研究する上で、三次元計測による研究方法は新たなアプローチたる可能性がある。しかし現在、様々な三次元測定機器や方法が登場しつつある状況であり、それぞれの利点と難点について充分精査されているとは言い難い。測定方法自体の比較研究を行いながら、調査を進めていく必要がある。 口伝を旨とし文献資料が少ない修験道文化ではあるが、当時の精神性は造形の中に如実に残されている。今後は九州各地の磨崖仏の地理的な関係性に注目し、造形物から推測される芸術的意図と文化観を明らかにしていきたい。具体的には今熊野窟月輪大梵字や清水磨崖仏月輪梵字(鹿児島県)、清水磨崖仏と作風が近似している青木磨崖仏月輪梵字(熊本県)等の造形的な特徴の繋がりから、ほぼ九州全域に広がっていた鎌倉時代の英彦山修験道文化と、地理的な連関のあり方を明らかにしたい。研究内容を論文にまとめ、ホームページで公開する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請していた物品が、残額では購入できなかったため(11,892円)、次年度使用額の中で購入することとなった。 立体プリンター用消耗品を購入予定 (Z-BOND90/16,400円)
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