本研究は、日本の都鄙観念のしくみと史的展開を考究することで、日本の文学史、文化史の本質を捉える新たな視点を確立しようとするものである。三年間の研究期間に、古代から近世前期に至る文学テキストの記述を調査し検討することを通して、日本の文学、文化の形を決定づけてきた都鄙観念について、(A)その基本的なしくみ、(B)その史的展開、(C)この概念をめぐって浮かび上がる文学史、文化史にかかわる問題を明らかにすることをめざした。 平成25年度は、主に、上記の課題の(A)に取り組み、都鄙観念のしくみを考察し、平成26年度は、主に、課題の(B)に取り組んで、日本の都鄙観念の史的展開を検討したが、最終年度の平成27年度は、この二年間の成果をふまえ、総括する研究を進めた。その中で、後掲のような論文の発表、執筆と、学会発表を行うとともに、課題の(B)については、日本の都鄙観念の古代から近世に至るまでの史的展開を総合的に捉えた。また、課題の(C)について、日本の文学史、文化史を考える上で、学芸、リテラシーが、都鄙観念を緩やかに形作りながら、地域の別を超えて、脱境界的、脱領域的に広がることに着目する必要があることを発見的に理解するに至ったのは大きな成果であった。 本研究は、都鄙観念に注目して、膨大な文学テキストの記述を読み解き、日本の文学史、文化史について考察したが、こうした考究を通して、学芸の歴史的重要性を深く認識し、日本のリテラシー史の構築という新たな研究課題を見出すこととなった。この日本のリテラシー史の構築という課題は、今後の日本文化研究の新領域を拓くものと考えている。こうした課題を見出すに至ったという意味で、本研究は、挑戦的萌芽研究として、たいへん有意義であったと評価し得る。
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