研究課題/領域番号 |
25580054
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
杉山 欣也 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (90547077)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 三島由紀夫 / ブラジル / アポロの杯 / 国際情報交換 |
研究概要 |
三島由紀夫はその第1回目の世界旅行に際して、ブラジルを訪問した。具体的には、1952年1月27日、リオデジャネイロに降り立ち、サンパウロ、リンスを訪問したのちふたたびリオデジャネイロに赴き、カーニバルを体験したのちパリに向かった。その体験のもたらす三島文学上の意義を明らかにし、また現地においてその痕跡を調査し、また現地の三島文学研究者と交流を持つことを本年の目的とした。 2013年12月の2週間、通訳者を伴ってリオデジャネイロとサンパウロを訪問し、三島の紀行文「アポロの杯」他に記された場所のいくつかを特定し、そこに書かれていること/書かれなかったことに関する知見を得た。たとえば、三島由紀夫文学の重要なモチーフのひとつがリオデジャネイロにおいては重要なイメージとなっているにもかかわらず、そのことを三島は記さず、しかしそのことを念頭に紀行文を執筆していることなど、創作上の秘密とも言える事柄がいくつか分かった。また、日本語紙誌を調査し、その足跡を確認した。そこには新発見と思われる事項も含まれている。また、リンス訪問時に三島が滞在した農園の農園主であった方とサンパウロで会い、長時間のインタビューに成功した。また、州立サンパウロ大学日本文化研究所において、三島由紀夫のブラジル体験に関する現時点での考察結果について講演の形で報告した。この報告はポルトガル語訳され、いずれ上記研究所発行の雑誌に掲載される予定である。さらには、当地で日本文学について研究している州立リオ大学や州立サンパウロ大学の研究者と交流を持ち、有益な情報と今後の協力を取り付けたことが実績として掲げられる。 同時にこのような実績から、ブラジルにおいてさらなる調査考察が求められることも分かった。そのため、2014年度は、交付申請書の内容を変えて、さらにブラジル調査と考察をつづけようと考えるに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたリオデジャネイロ、サンパウロ訪問を果たし、三島が滞在した相手にロングインタビューができたこと、また予定外の事柄として一部研究成果の報告を当地で行えたことなどが掲げられる。一方、今回の調査によって、事前の想像とは異なる調査対象が浮かび上がったこともあり、次年度以降は交付申請書から逸脱する調査考察を行う必要も生じている。それもまた、研究が順調に進展している証拠と言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度の調査によって、研究上の新たな課題が見出された。それは、これまで私自身も含めて三島由紀夫の内的な動機から考えられていた三島のブラジル体験の意味を、受け容れるブラジル社会、ことに「カチ・マケ論争」に代表される戦後の混乱期を経て日本との国交を回復していく途中段階にあった日系社会サイドからとらえ直す必要があるということである。三島がブラジルを訪問した前後は、国交回復から移民再受入の間という微妙な時期であり、さまざまな日本人文化人が訪れて当地メディアに足跡を残した時期でもある。その観点から三島のブラジル訪問の意味を考えることは、2013年度に知り得た知見を確認するために重要なことであると同時に、国際交流史の問題とも関わる課題であるという認識を得た。そのため、「交付申請書」ではイタリア調査を行う予定であったが、今年度は再度ブラジルを訪問し、また関連書籍等を購入して知見を深めたい。
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