研究課題/領域番号 |
25580057
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
馬場 美佳 北九州市立大学, 文学部, 准教授 (90405548)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 日本近代文学 / 明治文学 / 新聞 / 翻訳 / 国際情報交換 / イギリス / 森田思軒 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、『郵便報知新聞』に掲載された森田思軒の翻訳小説の原典を、海外調査を主として行うことで明らかにし、新聞メディアによる近代日本の人文知の形成のありようを再考することにあるが、2年の研究を経て、近代技術の発展によるメディア網の世界的な拡張がもたらした状況が、今回の調査課題の背景にあることが明らかになり、今後発展しうる新たな課題が発見されてきているといえる。また、これまで書籍を想定した「原典」を用いてきたが、新聞記事・雑報を含めた「原著」とした方が適切だと判断するにいたったため、以降「原著」を用いたい。 平成26年度に実施した研究内容とその成果は以下のとおりである。 ①海外調査のための準備―前年度に引き続き、海外における調査の視野を広くもつため、イギリスを中心とした欧米の新聞研究および定期刊行物研究に関する国内・外の著書・論文等を収集した。 ②海外調査―平成26年度は2週間のイギリス・大英図書館における調査を行った。当初、本研究は原著不明作品を明らかにすることによって、『郵便報知新聞』や森田思軒といった日本の特定のメディアと人物に絞り、そこから近代文学の始発期を考えるというスタンスであったが、今回の調査の結果、19世紀末に展開した新聞をめぐる国際的な状況のなかで、新聞と文学、さらには著作権の黎明期における出版物についてより世界史的なまなざしで捉え返す必要を実感するに至った。ただし、調査期間を3週間予定していたものの、ポンドが高額になったため、1週間調査期間を短くせざるを得なかった。そのため、予定した調査の方針をやや変更し、原著が判明した数作に焦点を当て、より詳細な調査を行った。この成果の一部を学会で口頭発表した。 ③『郵便報知新聞』記事のデータ化および考察―明治20年分の『郵便報知新聞』の記事のデータ化を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①海外調査のための準備―前年度から引き続き行なっているイギリスを中心とした欧米の新聞研究および定期刊行物研究に関する国内・外の著書・論文の収集については、随時更新される問題であるため継続して行うものだが、現在のところおおむね順調であるといえる。この過程において見出した多岐に渡る問題点について、今回は新聞と植民地経営問題に的を絞り調査を進めることにした。そのためアメリカ・オーストラリアなど大英帝国の植民地化と関連の深い地域について、メディア史を中心に関連する文献を追加して収集し、英語文献における研究状況について把握することを目指した。 ②海外調査―イギリスの大英図書館にて2週間の調査を実施した。先の概要でも述べたが、ポンドの高額化により、予定より1週間短い調査となった。昨年度の実施状況報告書に記した通り、19世紀末からイギリスで流行をはじめるShort story・Short novel・Taleの書き手たちに注目し、彼らの作品を掲載する短編集・定期刊行物について調査を行った。だが、当初想定していたものと異なり、多くの原著が書籍・雑誌といった出版物由来ではない可能性が高まった。そのため、後半からは各国新聞データベースによる調査に積極的に切り替え進めていった。結果、原著不明作品を昨年度に加えてさらに明らかにすることができ、現時点では原著不明24作中、13作が判明している。また、新聞掲載後の転載や出版状況といった、さらに詳細な調査をすすめ、成果の一部について、日本比較文学会・九州支部秋季大会にて口頭発表を行った。 ③『郵便報知新聞』記事のデータ化および考察―データ化をすべて行う予定であったが、次年度以降の新たな所属先である筑波大学において、中央図書館が所有する資料を直接貸与できる機会ができるため、『郵便報知新聞』の明治21年度以降のものについては、次年度の作業として行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
①海外調査のための準備―引き続きイギリスを中心とした欧米および旧植民地における新聞研究および定期刊行物研究に関する国内・外における最新の著作・論文等を収集していく。可能なかぎり通信技術史も網羅していく。これにより、今回の研究課題を国内外の学界においてどのように位置づけられるかを見定める。 ②海外調査―引き続き大英図書館にて調査を行う。期間は、新たな勤務校における業務のかねあいで、1週間程の調査を2回できればと考えている。また、19世紀のフランス原作作品の出版状況の詳細を調査する必要が生じており、本年度2回目の海外調査において、フランスの国会図書館での19世紀文献調査を、イギリスに加えて実施したい。 ③『郵便報知新聞』記事の考察―森田思軒の原著不明作品を中心に課題に挑戦して行くことに限られた時間と予算を配分するため、結論まで到達することは難しいが、『郵便報知新聞』紙上で行われた文学を含む編集の試みについて、これまでに関係が明らかになった海外の諸新聞の編集とどのように重なり合うか、あるいは重なり合わないか、について実測できるような基準を作る必要があると考えており、継続的に研究しうるテーマとして発展させたい。その際、昨年度調査を早めたいと報告した『郵便報知新聞』紙上の「海外通信」記事も含めて分析していく。 ④人文知形成過程という観点からの総合的考察―①~③の作業を進めつつ、総合的な考察をすすめ、今回の挑戦的萌芽研究のその後につながる課題について、明確なテーマとして提示する。また、学会にて口頭発表したものについて、明治期に本格化した国内外の新聞と文学の関係の複雑な様相とそれによる人文知形成のあり方の問題として論文化し、諸学界に問題提起することを行うこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
イギリスのポンドの高額化により、最終年度の旅費を充分に確保するため。
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次年度使用額の使用計画 |
イギリスにおける調査を2度実施する。
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